2013年にフランスの経済学者、トマ・ピケティが「21世紀の資本」という本を出版しました。
この本は、出版されてすぐ世界中で話題となり論争を巻き起こしたベストセラー本です。現代経済学で最も影響力のある本といっていいでしょう。あのカール・マルクスの「資本論」の現代版とも呼ばれているのです。
日本語版は、728ページもあるとても分厚い本です。
世界中の経済学者を突き動かした、この分厚い本にはいったい何が書かれているのでしょう?
実は、最終的にピケティさんが言い表したことはたった1つでした。
このたった1つの理論が世界中に大論争をもたらしたのです。
一体ピケティさんは何を明らかにしたのか?
それは、「r>g」という不等式です。
今回はこの概要を簡潔に解説していきます。
R>Gとは何なのでしょう!?
ピケティさん自身が著書の中で、「この不等式が私の結論全体の論理を総括しているもの」と語っています。つまり、R>Gという式が「21世紀の資本」の中で最も大切なものということです。
この分厚い本の中には、実際の統計分析や難しい論理立てが沢山書かれてあり、多くの人が最後まで読み切らずにやめてしまうのですが、読むのを挫折した方でも、まだ読んでない方でも、この不等式の意味さえ分かっていれば大丈夫です。
では、前置きはこのくらいにしておいて解説に移ります。
・R=資本収益率
いわゆる株や不動産で得られる経済価値(富)
つまり不労所得で得られる金利や利回りのこと
・G=経済成長率
いわゆる労働で得られる経済価値(富)
つまり産出や所得の増加率
ということになります。
「R>G」という不等式は、労働で得られる富よりも、株や不動産などの不労で得られる富のほうが早く蓄積されるという意味になります。
この不等式は、「たくさん働いてお金持ちになりましょうという」と表立ってよく言われていることは、理論上間違っていたということを教えてくれています。
著書では経済格差という視点で議論がなされていますが、ミクロな視点で考えていくと働いてもお金持ちにはなれないということを突きつけられていると捉えることができます。(どうにもならない衝撃な理論ですね。)
逆にお金持ちの親を持てば相続でその富を受け継ぎ、そのお金を運用することで働かなくてもお金持ちという状態を維持し続けることができるということになります。しかも資本自体は、維持ではなく、より大きくなるのです。
「21世紀の資本」の肝は、資本家が「投資」から得る収益が、労働者が「労働」から得る給与所得や事業所得を常に上回り続けるため、格差は広がり続けるばかりであるということです。
つまり、ここで言っている格差は、一般的に言われている格差とイメージが異なります。
というのも、私たちは、「給料が高い」や「福利厚生が充実している」、「時間当たりの賃金が高い」というもので所得の差を比べようとしますが、ピケティさんの言う格差とは、あくまで、資本家と労働者の間での差のことです。
著書では、この格差が縮まる例も紹介されています。
それは戦争や恐慌が起こった場合、RとGの差は小さくなるというものです。
国が戦争や恐慌を乗り越えるために、資本家から多くの税金をとるようになり一時的に資本収益率が低くなるという仕組みです。
しかし、このような特異的なことがない限りは、長期的に見た時、資本主義経済の中でこの格差は広がり続けるという構図に変わらないという結論に至っています。
具体的な数値を見ると一目瞭然です。
両者の収益の成長率は、
Rは4~5%
Gは1~2%
と報告されています。
つまり、資本家は年間で4~5%の儲けが出るのに対して、労働者の給料は年間で1~2%のペースでしか増えないということです。資本家は労働者と比べて年間で4倍も資本を増やしていくというのです。
普通のレベルの経済成長では、格差は開く一方であるというのがピケティさんの主張なわけです。
つまり、ピケティさんの主張は、先祖代々の金持ちの家計は相続により永遠にお金を持ち続けるという、労働者階級の多くの人にとって残酷なものと言えます。
これがR>Gという不等式の正体です。(いつかRの住人になりたいものです汗。)
従来の経済学の理論では、経済成長をしていき、労働者の給与が増えていけば、こうした格差は徐々に縮まると考えられてきました。
実際に世界各国で経済成長をすると格差が縮まるという現象が見られました。しかしこの現象は、20世紀の前半という狭い範囲の分析で明らかになったことでした。
ピケティさんが、範囲を広げて調べてみると、実は長期的にみていくと格差は広がり続けるということが分かったのです。
ピケティさんの説が多くの経済学者から支持されている大きな理由は、膨大な量の税務データを徹底的に調べ上げた点です。
なんと、過去200年分のデータを20か国分も、15年かけて分析したのです。
従って、著書での主張は、ピケティさんの個人的意見を示したものではなく、客観的なデータ分析という裏付けの基になされたものということです。
(ただ、200年も前のデータを扱っており、その頃は明確な国際基準もありません。従って、比較可能なものとは一概には言えないとのことから、100%完璧なデータとはいえないという意見もあるようです。ピケティさん自身も著書の中でこれが完全なりろんではないということを認めています。)
(出典:wiki)
・トマ・ピケティ(47歳) ※2019年2月時点
・フランスの経済学者(経済学博士)
・専門は経済的不平等で、主に歴史比較の観点から研究を行っています。
・18歳でバカロレアを取得し、パリの高等師範学校に進学しました。そして、22歳で博士号(経済学)を取得したとても優秀な方です。
・2002年にはフランスの最優秀若手経済学賞を受賞しています。