「精神医学」における主要な精神疾患のひとつである認知症(dementia)について解説します。
脳の何らかの後天的な器質障害により、一度発達した認知機能、精神機能が持続的に障害され、永続的に低下した状態のこと。
DSM-5では「神経認知障害」という呼称が用いられている。
①:記憶障害
→物忘れなど
②:認知障害
→失語、失行、失認、見当識障害(日時,場所,ものがわからない)
③:実行機能の障害
→日常生活で必要なレベルの物事を自分一人で行えなくなる。
認知症は、その分類や病態によって以下のように分類される。
①:アルツハイマー病
→脳全体が委縮することにより、認知機能が全体的かつ斬進的に悪化する。
②:血管性認知症
→脳出血や脳梗塞などのため発症し、運動や感覚機能に障害がみられる。
③:レビー小体症
→発病初期から幻視やパーキンソン症状がみられる。
④:前頭葉側頭葉変性症
→脳の神経細胞の異常な変化・減少により発症し、反社会的行為にまで及ぶ大きな人格変化や言語機能の障害がみられる。
また、アルコール依存症によってビタミンB1不足に陥ると器質的な変化が起こり認知症になることがある。
運動障害や意識障害を特徴とするウェルニッケ症候群と、記銘力障害・健忘・作話・失見当識・人格変化がみられるコルサコフ症候群と関連があることから、ウェルニッケ-コルサコフ症候群と呼ばれる。
※ウェルニッケ-コルサコフ症候群では振戦せん忘が見られる。振戦せん忘とは、発熱や発汗、幻覚や幻聴、興奮や混乱を症状とする急性発作であり、アルコール依存患者がアルコールを離脱した際に起こる場合が多い。
治癒しないとされている。
以下に代表的な支援・治療法を挙げる。
・フォルソンにより開発された、リアリティ・オリエンテーション(生活上の具体的な事柄を思い出してもらい見当識を保つことを目的とした訓練法)で進行を遅らせる。
・家族の援助・サポートが不可欠なため、家族に対して心理教育を行う。
・介護者が燃え尽きないように介護施設を併用するなど環境調整する。
脳全体が委縮することによって引き起る認知症のこと。記憶をはじめとする認知機能が全体的かつ斬進的に悪化し、人格の変化や感情の平板化が見られる。最終的には寝たきりになることもある。
また、進行に伴い見当識も障害されていき、日時→場所→人の順で分からなくなっていく。
有病率は女性のほうが多い。
脳にアミロイドβやタウという特殊なたんぱく質がたまり神経細胞が死んでいく。
通常の老化に伴う物忘れは想起に困難があるが、アルツハイマー性は記銘・保持に困難をきたす。つまり、出来事そのものを忘れてしまう場合、アルツハイマー性の記憶障害が疑われる。
<プラスの知識>
・順向性健忘:海馬の障害から始まり、新しい情報が記憶できなくなること。
・逆向性健忘:進行とともに大脳の委縮が起こり、以前学修したことを想起できなくなること。
症状は脳の損傷部位に依存し、進行も段階的である。
また、比較的人格も保たれやすい。
有病率は男性のほうが高い。
脳出血や脳梗塞、くも膜下出血などの脳血管障害により、脳細胞が死滅することにより起こる症状の一部であると報告されている。
見当識障害や実行機能の障害が主症状である。また、言語障害や運動麻痺など様々な症状が併発することもある。
幻覚や妄想、パーキンソン症状を中核症状とする認知症のひとつで、アルツハイマー型に次いで多い認知症である。
有病率は男性のほうが高い。
初期の頃の記憶障害や認知障害は少ないが、他の認知症に比べ、進行すると寝たきりになる確率が高いという特徴がある。
早期の診断は非常に難しく、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病と診断されてしまう場合も多い。
前頭葉と側頭葉に委縮や編成が見られる認知症である。
代表的なものとしてピック病があげられる。
主な症状は、極めて自分勝手な行動や反社会的行為などがあり、人格が著しく変容することが特徴である。
言語機能の障害が中心で、アルツハイマー型と比較すると記憶障害や見当識障害などの症状は軽い。
認知症の症状の中核となる記憶障害、認知障害、見当識障害といった中核症状から二次的に起こる障害のこと。周辺症状ともいう。
心理症状→抑うつ、不安、幻覚、妄想
行動症状→暴力、拒絶、徘徊
BPSDは、認知症の中核症状以上に介護を困難にする一方で、環境調整や薬物療法を行うことによって症状が改善する可能性が高い。
認知症の症状や特徴は様々です。
心理臨床では、適切なアセスメントと援助、環境調節や家族への心理教育など多岐に渡って貢献しなければならない領域のひとつと言われているので、理解が必要です。