「臨床心理学」における重要な治療法のひとつである家族療法(family therapy)について解説いたします。
目次
不適応や精神疾患の原因が、家族システムや家族のコミュニケーションのパターンによるものと考え、家族全体を相互作用し合うひとつのシステムとみなし、そのシステムに働きかける心理療法である。
家族療法では、家族全体を一つの有機体としてとらえる見方をする。そのため、クライエントの問題の原因を、特定の家族の成員にあるという直接的因果律では捉えない。
家族療法の考え方は、家族メンバーそれぞれが問題の原因であり結果であるという円環的因果律という考え方に基づき、個人単位の心理療法のみでは真の問題解決には至らないと考える。
家族療法において、症状や問題を抱えた人(患者とみなされている人)をIPと呼ぶ。
IPは「みなし患者」という意味を持ち、家族がシステムとしてその機能を失ったために、その病理を代表してたまたま症状や問題を表していると考える。(この考え方が、円環的因果律につながる。)
そして、IPの抱える問題を解決するために歪んだ家族システムを健全に機能する家族システムへ変容させていくことを目指す。
家族療法には様々な学派が林立しているが、総論として共通することを以下に挙げる。
① システム論に依拠している。
② 家族間のコミュニケーションを重視している。
③ チームによって治療にあたる。
家族療法には様々な学派があり、その方法も多岐に渡るが共通する考え方を以下に挙げる。
① 顕在化している問題が、家族集団の中でどのように関連しているのかを見つけ出す。
② それに基づき、家族成員がどのような形で実際に治療に参加できるのかを検討する。
③ IPを含めた参加者全員に、治療目標や期待を聞く。
④ 合意の得られた目標を差ざめたうえで、それぞれの理論に基づき介入を行う。
※カウンセラーの役割は、理論的背景により様々である。以下に家族療法の諸理論を紹介していく。
ミニューチンによって創始された学派である。目的は、適切な世代間協会を持つ家族への再構築を目指すことである。
家族のシステム構造に重点を置いたアプローチ。家族は、親子・夫婦・兄弟姉妹などのサブ・システムから成立しており、各システム間に境界が存在する。
各境界が不明確で、機能がスムーズでない場合に、セラピストは家族の交流にジョイニング(参加)する。セラピストが家族成員として交流しながら、家族葛藤を顕在化させながら、適応的な交流パターンの形成を促す。
なお、構造派では家族を捉える際に、境界・連合・権力という3つの視点がある。
① 交互作用を生み出すための技法
・枠組み付け
→家族交流のパターンに影響を与えるために、セラピストが意図的に交流の中に入り、家族成員の関与を統制する。
・エナクトメント
→家族構造を理解させるために、非機能的な交流パターンをセラピストの前で再現させる。
・課題設定
→家族構造についての情報収集や、交流パターンの改造の準備のために、特定の交流パターンに関連する課題をだす。
② 交互作用にジョイニングするための技法
・トラッキング
→家族に今まで通りのコミュニケーションを続けるよう指示して、その交流パターンに逆らわないようにする。
・アコモデーション
→ジョイニングするために、セラピストは自分の行動を家族の交流パターンに合わせること。
・マイム
→セラピストが家族の真似をすること。
③ システムを再構成するための技法
・再編法
→IPと家族成員のシステムを組み替えることによって家族構造を変えること。
・症状焦点化
→症状の機能をなくすことで、症状が家族の交流パターンの存続に必要のない状態を作る。
・構造変革
→家族構造の境界、勢力に直接働きかけて、家族構造を変化させる。
ジャクソンにより創始された。
家族をコミュニケーションの相互作用システムと捉え、家族成員の内面の問題は取り扱わず、コミュニケーションの機能不全的な連鎖に介入し、それを修正することを目的とする。
症状や問題が継続している状況を詳細に検討する。
そして、そこに存在する解決の努力、つまり、それまで家族が試みてきた問題解決の行動こそが問題であるという視点で考える。
従って、これまでの問題解決とは異なった行動を処方して、家族システム内のコミュニケーションに変化をもたらす。
ペイトソンにより提唱された概念。コミュニケーション学派はもちろんのこと、家族療法全体に大きな影響を与えた理論である。
コミュニケーションの中で2つ以上の異なる意味をもつメッセージが送られ、いずれも重要な意味を持ち、しかもそれらが相互に矛盾することにより葛藤状態に置かれる中で、その矛盾を問いただすことも、逃れることも出来ない状況を言う。
【おまけ】
ヘンリーが提唱した戦略派はコミュニケーション派に位置づけられることが多い。
戦略派は、家族システム内の悪循環を断つための技法を編み出し、様々な技法を戦略的に駆使して、家族の問題を迅速かつ効果的に解決していくことを目指す立場である。
ボーエンやナージなどにより創始された学派である。ジェノグラムを用いて家族投影過程や多世代伝達仮定の情報を集め、その情報に基づいて家族関係を変化させることを目指す。
精神分析の影響を強く受けているため、家族成員の中の力動に重点を置いている。
・家族投影過程
→親の融合、未分化の程度が、子供に伝承される過程のこと。
・多世代伝達過程
→家族投影過程が多世代に伝承されること。
セラピストは、融合も遊離もしない高度に分化したモデルとして家族構造に参加して、家族成員の分化を促し、家族関係を変化させる。
(分化と融合とは、個人間で感情やパーソナリティ、知性などがどの程度別人格として分かれているか、もしくは分かれていないかの程度のことを指す。)
家族療法の総論から代表的な学派を紹介してきました。
ぜひ参考にしてみてください。