「精神医学」における主要な精神疾患のひとつである摂食障害(feeding and eating disorder)について解説します。
目次
様々な社会的要因を経て、ボディーイメージの障害と食行動の異常をきたし、身体の内外に多大な影響を与える精神疾患のこと。
(10代後半から20代前半の女性に多くみられる。)
原因を1つに特定することは難しいが、ダイエット願望や、環境の変化によるストレス、アイデンティティ拡散などが主な原因である。
現在は、心因説・身体因説・社会因説が相互にかつ複雑に影響しあって発症する多次元モデルが最も広く受け入れられている。
DSM-5(精神疾患の診断と統計のマニュアル)では摂食障害を以下のように分類している。
・神経性やせ症(拒食症)
・神経性大食症
・むちゃ食い障害(過食性障害)
極度の肥満恐怖ややせ願望、ボディーイメージの障害により、一般的に必要とされているカロリーに比べて著しく低いカロリーしか摂食せずに、年齢や性別、身体的健康状態に対して有意に低い体重を有する疾患。
(有意に低い体重は、DSM-Ⅳまでは「期待される体重の85%以下」とされていたが、DSM-5からは「正常下限」より低い体重」と数値の明示を避けている。)
病型は、過食や排出行動がない摂食制限型と、大食をして下剤や嘔吐で低体重を維持しようとする過食・排出型がある。
自制不可能な発作的なむちゃ食いを繰り返す疾患。また異常なむちゃ食いの後、嘔吐や下剤などで食べたものを身体から排除しようとする異常な代償行動を伴うもの。
うつ病や依存症、パーソナリティ障害を合併することがある。
※DSM-5より、病型の排出型/非排出型の区分けがなくなった。
自制不可能な発作的なむちゃ食いを繰り返す疾患。しかし、神経性大食症とは異なり不適切な代償行動は伴わない。
一般的な食べすぎや肥満との鑑別に注意が必要である。むちゃ食い障害は単なる食べすぎとは異なり、食事摂食をコントロールすることが出来ないという特徴を持つ。ゆえに身体的問題や心理的問題が大きい。
身体的問題は主に肥満である。心理的問題は双極性障害やうつ病、不安障害との合併である。
※DSM-Ⅳでは「今後の研究のための基準案と軸」の項に暫定的に記載されていたが、DSM-5では正式な疾患カテゴリーとなった。
神経性やせ症(拒食症)に対する治療を以下に挙げる。
・入院療法
・認知行動療法(外来)
BMIが15.0以上になるまでは、入院栄養療法で栄養状態を確立する。一般的には経管栄養を行う。
回復してきたら、オペラント条件づけによる入院行動療法を行う。体重が増えるにつれ行動制限を徐々に解除していく。
フェアバーンらによって開発された、CBT-E(摂食障害者に対する認知行動療法)が主流である。
「太っている自分には価値がない。」や「少しでも食べればすぐに太ってしまう。」などの歪んだ認知の修正を試みる。通常20回(週1回)のセッションを行い問題を修正する。
しかし、BMIが17を下回るような低体重のクライエントの治療は通常のCBT-Eでは不十分で、40回のセッションを必要とする場合もある。
外来療法がメインではあるが、食行動是正のために短期入院を行う場合もある。
以下に神経性大食症およびむちゃ食い障害の治療法を挙げる。
・認知行動療法
・薬物療法
食行動を是正(行動療法)しながら、並行して認知の修正(認知療法)を図る。
基本的にはじょきで紹介したCBT-Eと同様の手続きで行う。過食症の場合は、過食や不適切な代償行動が生じた時の気分や思考をセルフモニタリングしてもらい、歪んだ認知を修正していく。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に過食を抑える効果があると報告されている。しかし、実際には著しい効果は期待しにくく、併存する精神疾患がある場合に使用されることが多い。
摂食障害の治療に有効とされる治療法には精神分析的アプローチにより母子関係を振り返ったり、自助グループに参加したりと様々なものがあるが、特に代表的な治療法を以下に挙げる。
・心理教育
・対人関係療法
摂食障害のクライエントに対しては、適切な心理教育により症状を知ってもらうことが重要である。
例えば、神経性大食症のクライエントに対して「長期間の過食により代謝異常をきたしうる」や、神経性やせ症のクライエントに対して「痩せすぎにより栄養失調になり通常の生活を送ることが困難になりうる」など、疾病に対する正確な情報の提供を行う。
食行動異常を直接は扱わず、症状をストレスマーカーとして捉える。
症状の維持因子である現在問題となっている、対人関係に焦点を当てる治療法である。
具体的には、対人関係の不和や欠如、役割の変化などに焦点を当てる。
これらは、併存する精神疾患に対しても効果が期待されると考えられている。
摂食障害は精神疾患の中でも致死率が高い危険な疾患であると考えられています。
DSM-ⅣからDSM-5に移行した際の変更点を理解しておくことをおすすめします。
また、治療法が多岐に渡るため重点を把握しておくことが大切です。適切な心理教育の後、信頼関係を構築してからそれぞれの望ましい治療を行っていく流れは変わりません。
特に健康的に危険なクライエントに対しては入院療法などで身体面の回復を優先的に行います。