「発達心理学」における重要なテーマのひとつである道徳性の発達(Moral judgment)について解説いたします。
道徳とは、人間の善悪の規範であり、世の中で生きていくための社会性である。
発達的な観点から、ピアジェとコールバーグの2名の研究者の理論が有名である。
・ピアジェ:規則に対する認識の発達(道徳的判断)
・コールバーグ:道徳性の発達段階
ここでは、ピアジェの道徳的判断の発達について扱います。
ピアジェは、子供たちの道徳的判断の獲得・発達は認知発達と関連すると考えて理論化した。
ピアジェによると、生まれてきたばかりの子供は倫理観が皆無で、良し悪しを判断する脳が育っていない。
子供が成長する過程で脳の発達や、教育、しつけなどから、少しづつ道徳的な判断を発達させていくと考えたモデルである。
ピアジェの観察から、多くの子供たちが8~10歳前後に「他律的道徳」の段階から「自律的道徳」の段階に移行するとわかった。
養育者や教師などの大人が、承認するか否かで行動を決め、ある種の規則に従う段階を他律的道徳の段階と呼ぶ。
つまり、他者のルールに従うことである。
この時期の子供は大人(両親や先生)を神のような権威者として捉え、大人が言った規則は絶対に守らなければならないという義務感が生じるという。
子供は、行動をその背景にある意図ではなく、行動の結果によって判断する傾向が強い。
つまり、行為の理由や意図ではなく、行為の結果怒られるから悪い、怒られないから良いと判断するのである。
大人が物理的に介入して子供の行為を統制し、子供は純粋に指示に従う「発動的ルール」や、大人が言っていることだから言うことを聞こうと判断し、規範に従う「強制的ルール」がある。
【他律的道徳の特徴】
・善悪は罰せられるか否かで決められる。
・善悪の程度では、行為の意図ではなく結果で判断される。
・規範は権威あるものによって決められたものである。
・規則は何があっても守らないといけないもの。
自分の規範意識の価値を意識しており、他者や権威者によって強制されたものではなく、自分自身の意思で行為を決定する段階を自律的道徳の段階と呼ぶ。
つまり、自分自身のルールに従うことである。
これは、「理性的ルール」と呼ばれるものであり、もしかりにルールが自らの意思に従わない場合はルールを破ることさえある。つまり、規則は無条件に存在するのではなく自らの意思によって決定する。
自律的道徳は、行為の意図・動機が決定的な要因であり、自分がどう思うかという要素が非常に重要である。この段階に入ると、ルールは回避不能な大人の審判などではなく、自らの選択によって決定されるものと考える。
正義などがこれに値する。
【自律的道徳の特徴】
・権威者に善悪と罰せられることは、道徳とは別の概念であると考える。
・善悪は、行為の背景にある意図・動機によって判断される。
・適正な合意と考えがあれば、規則は変更されてもよいと考える。
・道徳というものを判断する主体は自己にあると考える。
道徳的判断の発達の解説でした。
他律的道徳の段階では、行為の結果が善悪の判断には重要であり、自律的道徳の段階では、行為の裏にある意図や動機が重要であると考えます。
テーブルクロスにインクの染みをつけてしまった場合、前者では染みの大きさにより善悪の程度が決まりますが、後者の場合はわざとやったかわざとではないかによって善悪が決定するといった感じです。
ルールは完全なものではなく、正義感もまた完全なものではありません。
子供のみならず、大人も道徳について考えることが大切ですね。