「精神分析学」における概念のひとつである喪の作業(mourning works)について解説いたします。
目次
フロイト,Sによる概念である。
人間が喪失した対象から離れていくためにとる心理的過程を表したもの。
愛着や依存の対象を失うことを対象喪失といい、それによって生じる心的過程を喪(悲哀)という。
フロイトは、喪の作業を経ることによって失った対象から離脱し、新しい対象を求めることが可能になるとした。
喪の作業は、決してネガティブなものではなく、対象喪失を悲しむことから逃げることなく、向き合い、受け入れるために必要不可欠なものだと位置づけられている。
フロイトの理論を細分化した、ボウルビィは省略できない大切なプロセスとして、喪の作業の4段階プロセスを提唱した。
喪失を知ると、すぐに悲しくなるのではなく、事実なのかウソなのか状況が分からなくなる段階がある。
このような感覚の麻痺は、急性ストレス反応のようなもので、約1週間続くとされている。
事実を受け止めきれず、悲しくないような態度でてきぱき行動したり、唖然とすることもある。
1週間を過ぎるころになると、深い悲しみや悲嘆に苦しむようになる。対象を失った事実を認めようとはせず、空虚感や怒りを表出する場合もある。
罪悪感や自責など、極めてネガティブな感覚が顕著になることも特徴である。その一方で、まだ喪失した対象が生きているかのような振る舞いが見られることもある。
事実を受け入れ、抗議や否認をすることが見られなくなる。
しかしこのような態度は、決して悲しみが減少したわけではなく、「もはや何をしてもダメなんだ。」と無気力になっている場合が多い。
場合によっては抑うつ的になることもある。また、他者との交流を避け精神的に孤立する場合もある。
徐々に気分屋感情が穏やかになり再建に向かう段階に入る。
社会的にも機能するようになり、現実に直面することを受け入れる。
対象喪失に対して肯定的に受け止めることが出来るようになり、復帰に向かう。
精神分析理論に始まる喪の作業は、上記のボウルビィの理論をはじめ他にも多くの理論を生み出した。
ボウルビィの4段階は、対象喪失を経験した側の心的プロセスだが、キューブラ・ロスは、死の宣告を受けた側の患者のプロセスを示した。
【キューブラロスの5段階】
① 否認
→自分の余命がわずかであることは「何かの間違えだ」と反論し、事実を受け入れない段階。
② 怒り
→余命があとわずかであるという、事実は受け入れることが出来るが、「なぜ何も悪いことをしていない自分が死ななくてはならないんだ。」というような怒りにとらわれるような段階。
③ 取り引き
→なんとかして余命を長くできないかと願ったり模索したりする段階。
④ 抑うつ
→取り引きがどうにもならないと理解し、現実的に死を受け入れ、絶望や憂鬱に支配される段階。
⑤ 受容
→生命に終わりがあることを冷静に受け止め、自分の人生の終わりを受け入れる段階。
キューブラ・ロスは、死を宣告された人は衝撃と不信という反応を示した後、ほとんどがこの5段階のプロセスを経ると報告した。
対象喪失に関する心理プロセスを理解するのはとても勉強になると思います。
ボウルビィーやキューブラ・ロスのプロセスを読み解いていくと、すぐに悲しみがわいてくるのではなく、まず呆然とし疑うといったステップが入ることが理解できるかと思います。
精神分析に端を発する理論ですので関連に貼っておきます。