「精神分析学」の領域のひとつである自己心理学(self psychology)について解説します。
コフート,H.によって創始された精神分析の学派のひとつ。
自我機能を重視する自我心理学への批判として、主に自己愛の障害に関する治療理論およびパーソナリティ理論として発展した。
<自己心理学の特徴>
・自己をイド・自我・超自我という要素に分解せず、全体としての主観的イメージとして捉えている。
・母親などの、自分の一部として感じられるような他者を「自己対象」と名付けている。
・共感的な自己対象との融合を通じて、誇大的自己の極と理想的親のイメージの極により構成される「双極性の自己」が出来て、自己を形成すると捉えている。
自己心理学では、自己愛性の障害の原因を双極性の自己の傷つきと考える。
※双極性の自己の傷つきは自己対象が、共感的で受容的な交流を構成・維持出来なかったために生起したと考える。
(豆知識:マスターソンは、自己愛が過剰なために起こる精神疾患を自己愛性パーソナリティ障害、自己愛が著しく低いために起こる精神疾患を境界性パーソナリティ障害と説明した。)
<治療>
セラピストが、過去の自己対象に満たされなかった欲求を共感的に受容する。
①欲求を充足・開放できるようにする。
②適度に欲求不満を経験させ、それに耐えれるように支持する。
これら2つを通してセラピストを自己対象として内在化することを目指す。
リビドーが自己表象に向けられていることで自分自身を愛の対象とすること。
(他者との共感や対等な交流が困難という特徴がある。現在では、一般的に自分自身を守るために必要な心理機能と言われているが、他者を自身の欲求の充足のための道具として使う傾向性を示したら病的であると判断される。)
自己愛については心理学において様々な理論があるが、代表的なものを以下に2つ挙げる。
・フロイト,Sや自我心理学
⇒自己愛は乳幼児期に見られる未成熟の状態と考える。児童期以降は対象にリビドーが向けられるため対象愛に支配される。そのため、青年期以降に自己愛の状態が顕著にみられ持続する場合は、退行であり病的状態であると考えている。
・コフート(自己心理学)
⇒自己愛は児童期以降、対象愛として並行して存在し、どちらが優位であるか、あるいはそのバランスが病的傾向の有無を決定するにすぎないと考えている。
コフートは、健全な自己愛が存在して初めて健全な対象愛が発達すると主張した。
・自己対象
・誇大的自己
・理想的親
・双極性の自己
・自己愛
・自己愛性パーソナリティ障害
・境界性パーソナリティ障害
自己心理学を理解している方は、精神分析の中級者以上といえるでしょう。
なかなか独特な考え方が多く最初は取り掛かりづらい概念ですが、心理学の重要なテーマのひとつです。
自己愛の障害については、フロイト,Sやコフート、マスターソンの考え方が代表的です。勉強が進んできたら、各理論の違いなども理解しておくと知識が深まると思います。