「発達心理学」における重要なテーマのひとつである道徳性の発達(The Development of Morality)について解説いたします。
目次
コールバーグが、人間の道徳性の段階を3レベル6段階(1つのレベルにつき2段階)に分けたモデルのこと。
ある行動をする理由づけによって、道徳性の発達を分類した。
道徳性は幼児期から思春期、青年期の全体を通じて6つの段階を経て徐々に発達すると考える理論である。
※コールドバーグは他律的道徳・自律的道徳を提唱したピアジェの影響を強く受けている。
コールバーグは、10歳から16歳までの少年を対象に研究を行っている。
この研究では少年たちに2つの選択肢のうちからいずれかを選ぶものであり、どちらを選んでも完全な満足は得られないジレンマ課題であった。
有名なものにハインツのジレンマ課題がある。
【ハインツのジレンマ課題】
① ハインツの妻は病気にかかって死に瀕している。
② 意思はその病気がなくなる薬があるという。
③ その薬を作った薬剤師は、薬の開発にかかった10倍の値段をつけている。(開発費は500万であったが、売値は5000万であった)
④ ハインツは薬を買うために必死でお金を集めたが、薬のお金の半分しか集まらなかった。
⑤ ハインツは、必死に頭を下げ「安く売ってくれないか」「残りは後で支払う」とお願いした。(2500万は今払い、残りは後で払うという意味である)
⑥ 薬剤師は、それでは金儲けが出来ないからと断った。
⇒妻を助けたいハインツは薬を盗んだ。
さて、ハインツの行為は正しいか?それはなぜか?
コールバーグは、少年の中から58人を継続的な研究対象として、3年ごとに合計20年間にわたってテストを行い、年齢と共に道徳性がどう変化するのかを観察した。
その結果として、6段階の道徳発展と、3つのレベルの道徳的推論があると導き出した。
レベル | ステージ(道徳発展) |
前習慣的レベル(慣習的レベル以前) | ① 罪と服従の段階 |
② 報酬と取引の段階 | |
習慣的レベル(慣習的レベル) | ③ 対人的同調の段階(良い子段階) |
④ 法と秩序の段階 | |
脱習慣的レベル(慣習的レベル以降) | ⑤ 社会契約と個人の権利段階 |
⑥ 普遍的倫理原理の段階 |
道徳的推論の第1段階であり、人生の最初の9年間を通じて発展するものと言われている。
この段階の子供には道徳性の判断基準がなく、規則を固定的で絶対的であるものとみなす傾向がある。
ある行為に対するラベルに敏感であるが、このラベルは判断を下す人の権力によって解釈される。
行為の善悪は、それが懲罰をもたらすかどうかという判断基準で決まると考える段階である。
※罪を避けるために、力のある者に服従し規則に従う段階。(例:親に怒られるからその行為をしない。褒められるからその行為をする)
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:妻を死なせたら、他人から責められるから薬を盗る。
反対:薬を盗めば警察に捕まるから薬は取らない。
行為の善悪は、それによってどのような報酬がもたらされるかによって決められる段階である。
※他者の要望と要求の重要性は分かるが、それが相互的なものであると考える段階。(例:君がお菓子をくれたら、僕もお菓子をあげる)
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:捕まったとしても思い刑罰にはならないし、出所したら妻と会えるから薬を盗る。
反対:妻が死んだとしてもそれは自分のせいではないから薬は取らない。
道徳的推論の第2段階であり、思春期とともに始まり、青年期の入り口まで続く。
家族や内集団の価値基準に重きを置き、行為によってどのような結果が生じたとしても、重きを置いている価値基準の期待に応えようとする傾向がある。
更に、期待に答えようとするだけではなく、その価値基準を支持する。つまり、行為の帰結以上にその背後にある意図を重視する特徴がある。
他者を喜ばせ、「良い子」にすることで承認を得ようとする段階である。
この段階では「良い」と見なされることが目標となる。
※褒められたいから良い行動をとり、けなされたく無いから悪い行動を控える。
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:薬を盗んでも誰も悪いと思わないから薬を盗る。
反対:犯罪は自身や家族に不利益・不名誉をもたらす行為だから薬は取らない。
権威を尊重し、規則や秩序の維持から善悪を判断し、自己の義務を果たそうとする段階である。
※前悪の判断は「外から決められた規則」が基準となる段階である。
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:薬を盗まなければ、妻を死なせてしまったという罪の意識をいつでも持ち続けられるから薬を盗る。
反対:盗みを働けば、法を犯したという罪の意識が働くから薬を盗らない。
個人の内部に、善悪の判断基準が形成される段階である。
自分が所属している集団や他者の判断基準とは別の、判断基準を持つ。
コールバーグはこのレベルに到達する割合は10~15%であると示唆している。
法律や秩序そのものを重んじるのではなく、個人の権利や社会的公平さに重きを置く段階である。
当該規則が、合理的なものかが判断基準になる。ただ規則に従うよりも人間の生命がと音いものであることの認識が強まる。
※この段階では、集団や他者との間で合理的に決められた規則を大切にし、自分と他者双方の利益のために、自らの行為を判断する。
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:妻を死なせたら自尊心や、他者からの信頼・尊敬を失うから薬を盗る。
反対:薬を盗めば、法を破ることになり、社会における地位や尊厳を失うから薬を盗らない。
人間としての尊厳の尊重に価値を置く段階である。人間の良心の最終法廷である。
この段階になると普遍的な良心に基づいて善悪を判断する。
※現状の規範に硬直するばかりでなく、人間のあるべき姿やルール変更に至るまで考える。
<ハインツのジレンマ課題に対する答え方>
賛成:妻を死なせたら、良心より規範を優先させたとして自分を責めることになるから薬を盗る。
反対:薬を盗っても他者から責められることはないが、法を犯すことで自らの良心を責めることになるから薬は盗らない。
道徳性の発達の6段階理論は、道徳性が精神分析の主張のように子供に課せられるものでもなければ、行動主義者のように悪感情を排除することにかかわるものでもないという前提の基にあります。
コールバーグの考察では、子供は他者との相互作用を通じて、そして尊敬や共感、愛に気づくことで道徳コードを発達させるとしている。