「精神分析学」における重要用語である防衛機制(defense mechanism)について解説します。
目次
精神分析的自我心理学のアンナ・フロイトによって体系化された概念。
心理的安定を保つために不快な欲求・体験から自我を守るために用いられる様々な手段・心の機能のこと。
✔ ほとんどの防衛機制は、一時的に用いられて後に本来のイドの衝動や欲求が満たされる健全なものである。しかし、慢性的に用いられて、本来のイドの衝動や欲求が充足されないままだと結果として不適応や神経症を引き起こすとされている。
✔ 防衛機制は、自我の発達段階に沿って次第に高次なものになる。そのため、どのような防衛機制を用いられるかによって、クライエントがどの発達段階に固着しているのかの指標になりうる。
<+α>
防衛機制は…
自我心理学→肛門期以降に発達する自我機能と捉えている。
それに対し
対象関係論→口唇期前期から心的表象世界が存在し、自我の発達以前に見られる原初的な防衛機制が機能すると考えられている。(これを原始的防衛機制と呼んでいる。)
フロイト,Sにより発案された。
自我が耐えられない衝動・観念・記憶を無意識に押し込めること。最も基本的な防衛機制で、無意識的な作用である。
抑圧は、自己や他者の中には良い面と悪い面が存在するという両価性が受容出来て、そのストレスに耐えられる自我の強度がないと用いることが出来ないとされている。
→従って、肛門期以降になって発達する防衛機制であり、健常者や神経症圏の人間に多く見られる。
アンナ・フロイトによって体系化された。
抑圧した欲望や想いが、言動として現れるのを防ぐために正反対の言動をとること。
適切に対処できなかった自我にとって脅威となるような、衝動・欲求・感情を抑圧した上で、本来の価値や方向性とは逆の表現にして放出する作用である。
抑圧の強化や抑圧しきれない衝動への防衛機制として働く。
反動形成は、本心とは正反対の態度や行動をとり続けることになるため、ストレスとして蓄積されやすい。従って気づいたときには精神的に追い詰められて、神経症といった症状として現れたり、攻撃的な衝動が爆発することがある。
<具体例>
・アルコールを飲みたい人が酒を飲むことに強く反対する。
・嫌いな人に変に愛想よくする。
・好きな人に意地悪をしてしまう。
アンナ・フロイトによって体系化された。
自分自身が所有している受け入れがたい感情を、他人が自分に向けてきた感情であると不当に捉えること。
原始的防衛機制においても投影性同一視として用いられるように、発達の最初期から用いられる防衛機制である。
<具体例>
・友人に敵意を持つ人が、友人が自分に対して敵意を向けてきていると考える。
アンナ・フロイトによって体系化された。
受け入れがたい現実やかなえられない対象を満たすために、自分にとって重要な他人の行動や信念を自分自身のものとして内在化すること。取り入れという防衛機制を基盤にしている。
原始的防衛機制においても投影性同一視として用いられ、発達の最初期から用いられる防衛機制である。
もともとは、エディプス・コンプレックスに由来し、親などの重要な他者が示す社会的価値や役割が子供に内面化されるといった背景がある。これにより超自我が形成され規範意識が育まれる。
<具体例>
・エディプス期において母を異性として愛することが出来ないと知った男児が父親のようになりたいと思う。
アンナ・フロイトにより体系化された。
葛藤や罪悪感を伴う行動を事後に正当化すること。置き換えという防衛機制を基盤としている。
適切に対処できなかった衝動・欲求・感情は自我にとって脅威となる。そのため、自分の行動の帰結を正当化するために、本来の因果関係とは別のものに置き換えて説明する。
合理化は、三者関係に基づく相互作用が理解できるエディプス期以降になって発達するとさいわれている。
<具体例>
・イソップ童話(高いところにあるブドウを取れなかったキツネが「あのブドウはすっぱくてまずい」と言って去る。)
アンナ・フロイトによって体系化された。
不安や不快を引き起こす感情を意識化しないために、その感情と距離を置いて知的に判断しようとすること。置き換えという防衛機制を基盤にしている。
知性化は対象との関係をある知的な認識や思考の枠組みに置き換えることが出来る男根期以降に発達するといわれている。
<具体例>
・友人関係に悩む人が、その友人本人と向き合うことを避けて、一般的な友情論を語ろうとしたり、人間関係にまつわる小話をしようとしたりする。
アンナ・フロイトによって体系化された。
以前の発達段階に戻ることで過去のより未成熟な行動様式に戻ること。
退行は以下に挙げる4種類がある。
✔ 精神分析的療法において過去の発達段階における無意識の不安や葛藤を表現する=治療的退行
✔ 不安や葛藤が過去の発達段階に固執した反応の形態で表現される病理や不適応=病的退行
✔ 独力では問題解決が出来ない場合に、自律性を求める自我の規制を弱め適度に他者に依存する=適応的退行
✔ 実際には表現できない主観的イメージを小説や芸術品などの想像的表現に託す=創造的退行
<具体例>
・1人で着替えていた兄が弟が生まれて母の関心が向けられなくなったために、親に着替えさせてほしいと要求する。
アンナ・フロイトによって体系化された。
社会的に容認されない欲望を、社会的に望ましい形(スポーツや芸術)で表出すること。置き換えという防衛機制を基盤にしている。
自我心理学派においては、最も適応的な防衛機制であるとされている。
昇華は、対象との関係を社会的に望ましいものへと置き換えるという道徳的操作が出来るエディプス期以降になって発達するといわれている。
<具体例>
・好きな人にふられた無力感をスポーツなどで発散させる。
アンナ・フロイトによって体系化された。
認めたくない現実や不快あ体験や欲望を無意識的に拒否することで自我を守ること。
抑圧も不快なことを忘れさせる働きをするが、否認の特徴は知覚したうえでその現実や体験をかたくなに認めないことが特徴である。
(見て見ぬふりをする。聞いているが聞こえていない。)
<具体例>
・明らかに病気の人が症状を自覚しているにも関わらず認めようとしない。
アドラーによって体系化された。
劣等感をカバーするために、他の望ましい特性を強調すること。
アドラーは、様々な問題の要因として劣等感を補償するために、より強く完全になろうとする「力への意思」があると考えた。
※アドラーは精神分析学者で人間を分割できない「個人」としてみるということから個人心理学を提唱した。
<具体例>
・勉強が苦手な子が運動で頑張る。
防衛機制は精神分析学の重要な概念です。
防衛機制として体系化されているものは非常に多く、直感的に理解するのが困難なものもあるかと思います。
しかし、現実の社会に照らし合わせて具体例で考えると覚えやすいので、ぜひ意識してみてください。