「精神分析学」の重要単語のひとつである対象関係論(object relationship theory)について解説します。
クライン,Mによって創始された精神分析の学派のひとつ。
生後すぐ(口唇期段階)の乳児が、どのようにして母親との関係性を構築していくのかを示した理論のこと。
乳児が内的な世界に思い浮かべる表象(母親の姿)との関係性に注目している。
・妄想分裂ポジション
⇒生後4カ月頃までの母親を全体的に捉えることが出来ず、乳房(欲求を満たしてくれるもの)という部分対象で捉えている。
・抑うつポジション
⇒生後4カ月頃から、良い乳房(自分の欲求を満たしてくれる好ましい対象)も、悪い乳房(欲求を満たしてくれない悪いもの)も同じ母親であると理解する。(全体対象)
すると、攻撃的な感情を向けていた悪い乳房も愛する母親であると知り、罪悪感などから抑うつ的な気分に至る。
<おまけ>
自我心理学派と対象関係論には以下のような論理の違いがある。
➤アンナ・フロイト(自我心理学)
エディプス・コンプレックス以前は親との対象関係が構築されておらず、精神分析的解釈は意味をなさないとした。
➤クライン,M(対象関係論)
エディプス期以前でも母親との対象関係を構築する力があると対象関係論で説明し、精神分析的解釈は自動分析に有効であるとした。
また、乳児の未成熟な防衛機制を原始的防衛機制として、自我心理学における防衛機制と区別した。
乳児の精神内界に注目した、乳幼児期最初期の未熟な防衛機制のこと。
・分裂
⇒妄想分裂ポジションで見られる防衛機制。良い対象と悪い対象という部分対象にわけ、対象の持つ両価性を避けること。
・投影性同一視
⇒分裂させた部分対象に自分の悪い部分を投影し、その悪い部分を対象が持っているかのように振舞うこと。
(その他、否認・理想化・脱価値化がある。)
自我の防衛機制が、エディプス期における父-母-子の3者間の葛藤の抑圧を基に生じるのに対し、原始的防衛機制は、自他が未分化な2者関係の世界でタナトス(死の本能)という根源的な不安に対処するためにより未成熟な分裂という規制が生じる。
<おまけ>
乳児は成長とともに抑圧などの防衛機制を用いるようになる。しかし成長後も原始的防衛機制を用い続けると、自己愛性や境界性パーソナリティ障害などの不適応を引き起こす可能性があるということが報告されている。
・表象
・妄想分裂ポジション
・抑うつポジション
・原始的防衛機制(分裂,投影性同一視)
・タナトス(死の本能)
対象関係論は、口唇期以前の時期の内的世界を表した概念です。赤ちゃんの心理はイメージしづらいかもしれませんが、自我心理学の理論との違いを注視すると理解しやすいと思います。
身近に赤ちゃんがいたら、対象関係論の理論と結び付けて考えてみるのも面白いかもしれませんね!!