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愛の吊り橋効果はウソ?恋愛心理学の定説には落とし穴があった!

吊り橋

多くの人が「愛の吊り橋効果」という定説を耳にしたことがあるかと思います。

恐怖を感じる状況を共にすると恋に落ちやすくなる!というあの有名な恋愛仮説です。

お化け屋敷に行ったり、ホラー映画を見たりすると、その相手を好きになりやすくなる。みなさんのなかにも、このような経験をした方がおられるかもしれません。はたまた、「そんなことある?」と疑っている方もいるかと思います。

これは正にその通りで、この研究の厳密な結論を先に言ってしまうと、「愛の吊り橋効果は半分本当で、半分ウソ」ということになります。

そしてこの半分は、たった1つのどうにもならない要素で決まっているのです。

今回は、もともとの論文に立ち返りながら本当の愛の吊り橋実験を紹介して、その全貌を解説します。

 

恋愛心理学の有名な説「愛の吊り橋効果」とは?

おそらく多くの方がこの「愛の吊り橋効果」という言葉をテレビやラジオ、雑誌のコラム、飲み会などの雑談で見たり聞いたりしたことがあるかと思います。

「吊り橋を渡る」などのドキドキするような怖い体験を一緒にすることによって、そのドキドキが一緒にいる人の魅力だと誤って解釈されやすくなり、恋に落ちやすくなるという現象です。

この定番の心理学理論はあまりにも有名で、恋愛心理学のド定番の話題です。おそらく多くの方が知っている理論でしょう。

もしかしたら、この概説に沿って、初デートに「お化け屋敷」や「ジェットコースター」「ホラー映画」など怖い思いをするデートコースを意識的に選んだことがある方も男性女性問わずいるかもしれません。

そうした行為、もっと言うとこの定説は本当に正しいのでしょうか?

その答えは、この効果を明らかにした一番最初の研究よりもっと前の心理学の研究にありました。

ちゃんと研究を読むとどうやら、解釈しやすい点だけが世の中に話題として広がってしまっていて大事な視点が抜けているということが分かりました。

まずは「愛の吊り橋実験」のもともとの研究がどのように行われたのかを掘り下げていきます。(最後に論文の出典も出しておきます。)

 

ダットンとアロンの実験

いわゆる「愛の吊り橋実験」はカナダのカピラノ吊り橋で、ダットンとアロンという心理学者の監修の基行われました。

カピラノ吊り橋は全長140m、高さ70メートルの橋で、ものすごく揺れる、相当怖い吊り橋です。

では、実験の概要を紹介します。

愛の吊り橋研究

 

「愛の吊り橋実験」の手続き

 

<被験者>

実験群:カピラノ吊り橋を渡った男性23名(心理テスト自体を断った人を除く)

統制群:丈夫なコンクリートの橋を渡った男性22名(心理テスト自体を断った人を除く)

 

<手続き>

①実験群は、カピラノ吊り橋、統制群は丈夫なコンクリートの橋を渡り切ったところで、「美しい」女性の大学院生に「今、研究の被験者を募集しています。協力していただけませんか?」と声をかけられる。

②協力してもらえた場合(上記の人数が協力してくれた)、TATという欲求不満場面に対する態度からパーソナリティを測定する心理検査に答えてもらう。(この検査自体の回答内容は、この研究には関係せずあくまで答えてもらうことが重要)

③TATを回答してくれた男性被験者に、女子大学院生が「もし検査の結果が詳しく聞きたければ私に電話してください」と電話番号を渡す。

 

補足:このような手続きの上、もしつり橋を渡った被験者のほうが、コンクリートの橋を渡った被験者よりも多く彼女に電話をしたら、つり橋の恐怖からくるドキドキが彼女の魅力に対するドキドキであると誤認したことになるという仮説です。しかし、この計画だけでは大きな問題があります。それは、たまたま被験者が「本当に心理検査の結果を知りたかっただけ」だったという問題です。この問題をカバーするために研究者はもう1つの統制条件を用意しました。それは、橋を渡り切った被験者に対して、男性の大学院生が心理検査のお願いと、電話番号を渡すというものです。

 

 

結果

 

  電話番号を受け取った人数 電話をかけてきた人
実験群  78%  50%
統制群  73%  13%

 

この表で示したように、つり橋を渡った後の被験者は50%(18人中9人)も電話をかけたのに対し、コンクリートの橋を渡った被験者は13%(16人中2人)しか電話をかけませんでした。

つまり、つり橋の恐怖でのドキドキとと女子大学院生へのドキドキを誤認したことになります(もちろん、実験群も統制群も全く同じ女子大学院生をインタビューアーとして立たせていますから)

ちなみに、電話番号の受け取りに関して大きな数値の開きがないのは、被験者の建前上一応受け取っておくという規範面の要素も含まれるため、必ずしも恋愛感情と関連しているといえないと考えてよいでしょう。事務的に受け取るといったイメージです。(以降詳しい解説を示します。)

 

補足:もうひとつの統制条件(インタビューアーに男性大学院生を立たせるという群)では、つり橋を渡った群と、コンクリートの橋を渡った群の間で電話をかけてくる数の統計的な有意差はみられませんでした。このことにより、心理検査自体に対する興味により電話をかけているという疑いが解消されたことになります。

 

 

シャクターとシンガーの情動理論

ここまでのお話が、「愛の吊り橋効果」を証明した研究です。

怖くてドキドキしている状況と恋に落ちてドキドキしている状況とを正しく判別することができないという事実を分かっていただけたかと思います。

しかし、なぜそのようなことが起こるのでしょう?

次に紹介する、シャクターとシンガーの研究で「愛の吊り橋効果」のメカニズムが分かるかと思います。

そして、そこに示された事実を忠実に読み取っていくことが、この「愛の吊り橋効果」を本当の意味で理解するために大きな役割を果たします。つまり、この研究の中に、冒頭で紹介した「半分本当で半分ウソ」をわけるたった1つの要素が隠されているということになります。

それは、シャクターとシンガーが提唱した情動の2要因説と呼ばれる理論です。

サクッと紹介してしまいます!!

 

情動の2要因説

これは、情動が起こるためには、生理的喚起とそれに対する認知的処理の2つの要因が必要だというものです。

具体的にどのような実験からこのことが言えたのかを解説します。

 

シャクターとシンガーは3種類の被験者を用意しました。

A群:ビタミン剤と称してアドレナリン(交感神経が優位になり、血圧が上昇したり心拍数が上昇するといった身体状況を作り出すホルモン)を注射したのち、怒りを表出しているサクラと同じ部屋で待機させた被験者

 

B群:ビタミン剤と称して生理食塩水を注射したのち、怒りを表出しているサクラと同じ部屋で待機させた被験者

 

C群:アドレナリンを注射するが、そのことによって生理的に興奮状態になることを適切に説明されたのち、怒りを表出しているサクラと同じ部屋で待機させた被験者

 

この3種類の被験者で実験終了後に怒りという情動を喚起させた群が1つだけありました。

 

それは、A群です。

B群は、生理食塩水を注射したため、怒りを表出するために必要な生理的喚起が起こりませんでした。→よって怒りという情動は生起しませんでした。

C群は、自分の興奮状態が注射によるものだと正しく判断しました。つまり、興奮しているという生理的喚起を怒りによるものではないと適切に認知的解釈しました。→よって怒りという情動は生起しませんでした。

 

A群は、アドレナリンによる興奮状態を、サクラが怒りを表出している姿を見たことによるストレスによる興奮状態だと誤認したことによって怒りが生起したということになります。

 

このことから何が言えるのでしょう?

 

それは、人間は自分の感情が高まるほど、その原因が何なのかを、必ずしも正しく認識できないということです。

 

更に、シャクターとシンガーは怒りを表出しているサクラだけでなく、愉快な気分を表出しているサクラと同じ部屋で待機させるというデザインの実験も行いました。

するとA群の被験者は愉快になったのです。

つまり、同じ興奮状態であっても、周りの環境によって自分の感情は別のものに変化したということになります。

実は、人間という生き物は、生理的喚起からその状態や原因を直接認識しているわけではなく、環境などの外部刺激から、頭の中で一度考え直し、その場に適切な状態や原因を推測しているということになります。

 

このことを分かったうえで、愛の吊り橋実験をもう一度考えてみてください。

 

好きだからドキドキするのではなく、ドキドキしたから好きになるという考え方!

愛の吊り橋実験の被験者の心の中ではどんなことが起こっていたのでしょう?この研究を行った、ダットンとアロンは次のように考察しました。

 

ダットンとアロンの考察

吊り橋を渡ることにより、被験者はその恐怖からドキドキを経験します。あくまで、ドキドキを引き起こした原因は間違いなくつり橋を渡るという怖い経験をしたことにあります

しかし、このドキドキした状況下で、美人の女子大学院生に話しかけられます。

この段階で、被験者は自分のドキドキの原因が何なのかを推測します。

すると被験者は、吊り橋を渡ったことによる恐怖でドキドキを感じているのにも関わらず、目の前にいる美人な女子大学院生を見たことによって引き起こされているのではないかと誤って解釈してしまう可能性が出てきます。

先ほどのシャクターとシンガーの研究からも分かるように、ドキドキという生理的喚起は「恐怖」が生み出すにしろ「恋」が生み出すにしろとても似ています。(同じ興奮状態で怒りを生起した場合と愉快を生起した場面を思い返してください)

そして、人間はその生理的喚起を適切な説明がない限り、必ずしも正しく認知的処理できるわけではないという性質もあわせもちます。

「そのため、誤った解釈が生まれた」というのがダットンとアロンの考察です。

 

この考察を深くまで読むと、私たちが普段信じている常識が間違っていることになります。

それは、好きだから(恋に落ちたから)ドキドキするという考え方です。

私たちはイケメンや美女、あるいは外見を問わず主観的に魅力的な相手を見ると、そこで好きという気持ちが発生(認知的処理)するために、ドキドキする(生理的喚起)と思い込んでいます。

しかし、ダットンとアロンの実験を見ても、シャクターとシンガーの実験を見ても、これが真逆であることが分かります。

つまり、ドキドキする(生理的喚起)から、好きという気持ち、いいなという気持ちが発生(認知的処理)するということになるということです。

 

愛の吊り橋効果が利用できるたった1つの条件

ここまで、愛の吊り橋実験の詳細な解説や、情動が生起されるメカニズムの重要な点を解説してきました。しかし、この愛の吊り橋効果はある条件を満たさないと全く効果を発揮しないということも分かっています。

それは、この記事の中にも登場したアノ要素です。

実はこの愛の吊り橋実験は、もし、たった1つのアノ要素が欠けていたら成立しなかったのです。

皆さんすでにお分かりだと思います。

この実験に絶対に必要だったもの・・・

それは、「美人な」女子大学院生です。

衝撃なことに、この恋愛心理学で最も有名な定説は、ほんの一部の人にしか利用できないのです。

もし被験者が身体内部で起きているドキドキを、吊り橋を渡ったことによるドキドキだと正しく解釈してしまったら、愛の吊り橋効果は威力を発揮しません。

ドキドキという生理的状態を誤って認識させるためには、当然ながら吊り橋を渡った後にインタビューする人が被験者にとって「魅力的」な人でなければならなかったのです。

実は、追い打ちをかけるようにこのことを証明する研究がいくつか出ています。その中から1つ紹介させていただきます。

 

ホワイトの研究

 

<被験者>

男性の被験者に対して次のような操作を加え、異なる心拍状態を設定する。

・15秒間走らる(運動によるドキドキが小さい)

・120秒間走らせる(運動によるドキドキが大きい)

 

<手続き>

それぞれの条件の被験者に、服装やメイク、髪型によって美しい条件をそろえた女性と美しくない条件をそろえた女性を見てもらい魅力度を評定してもらう。(倫理面から美しい女性の条件と美しくない女性の条件はあくまで、同一の女性を協力者としている。)

 

結果

美しい条件がそろっている女性を見た時は、15秒間走った後の魅力度と比較して120秒間走った後の魅力度が上昇していた。

一方、美しくない条件がそろっている女性を見た時は、15秒間走った後の魅力度と比較して120秒間走った後の魅力度が下降していた。

 

つまり、美しくない場合は心拍数が上がれば上がるほど(ドキドキすればするほど)、魅力度が落ちたという結果を示した。

この研究では、対男性に対しての吊り橋効果の有効性と限界が示されていますが、対女性に対しても概ね同じような結果が報告されています。

 

つまり性別にかかわらず、相手にとって自分が魅力的でない場合、デートでホラー映画を見るのも、お化け屋敷に入ったりジェットコースターに乗るのも意味がないということになります。それどころか、更に魅力度を下げてしまうということが科学的に証明されているのです。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は恋愛心理学の有名な定説の「半分本当で、半分ウソ」な科学的な根拠を紹介しました。恋愛心理学には他にも面白い研究が沢山ありますので、機会を見つけてまた紹介していきます。

出典

・Dutton,D.G.,&AronA.P.(1974). some evidence for heightened sexual attraction under condition of high anxiety. journal of personality and social psychology,30,510-517.

・Schachter,S.,&Singer,J.(1962). Cognitive,social,and physiological determinants of emotional state.Psychological Review,69(5),379-399.

・White,G.L.,et.al.(1981). passionate love and the misattribution of arousal.journal of personality and sociai psychology,41,56-62.

 

 

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