「臨床心理学」における主要な理論のひとつである自己理論(self theory)について解説します。
自己理論(self theory)とは?
人間性心理学派のロジャースによって提唱された。
有機体としての自己を現象学的な視点からとらえた理論である。
ロジャースは有機体である人間は、その人が経験している独自の現象的世界「今、ここ」の世界に生きていると考えた。また、個人は自己実現し、維持し、強化しようとする潜在的な傾向が備わっていると考えた。
自己理論の内容
経験:有機体としての実際の体験(経験自己)
自己概念:その経験から自己として抽象化・概念化された部分(理想自己)
一致:経験と自己概念の重なりの部分。
ロジャースは一致の領域が広い状態を健常と考え、一致の領域が狭い状態を心理的適応に問題があると考えた。
治療的人格変化の必要十分条件
ロジャースが1957年に「セラピーによる治療的人格変化の必要にして十分な条件」という論文を発表した。
これは、建設的な方向にクライエントの人格が変容するために、クライエントとセラピストとの間に必要な条件や状態を示したものである。
以下にその条件を示す。
【セラピーによる治療的人格変化の必要にして十分な条件】
① 2人の人間が心理的な接触を持っている。
② クライエントは傷つきやすい不一致の状態にある。
③ セラピストは関係の中で一致し、統合されている。
④ セラピストはクライエントに対して無条件の肯定的配慮を経験している。
⑤ セラピストはクライエントの内的照合枠を共感的に理解し、クライエントに伝達しようと努めている。
⑥ セラピストの無条件の肯定的配慮と共感的理解がクライエントに必要最低限伝わっている。
このうち
①→前提条件
②,⑥→クライエント側の条件
③,④,⑤→セラピストの守るべき3つの態度
である。
セラピストに求められる3つの態度要件についてはこちらで詳しく扱っています。
※自己理論をカウンセリングプロセスに当てはめると、自己洞察→自己受容→自己決心である。
ストランズ
心理療法において、クライエントがどのような状態にあるのかを把握するための手がかりであり、最終的に統合されるべきパーソナリティの各側面のことである。
※もともとは衣服の素材となるより糸を意味するものであった。
ロジャースは7つのストランズの変化を段階付けることで、心理療法の進行過程を客観的に評価しようとした。
【7つのストランズ】
① 感情と個人的意味づけ
② 体験過程
③ 不一致
④ 自己の伝達
⑤ 体験の解釈
⑥ 問題に対する関係
⑦ 関係の仕方
パーソナリティが未成熟な段階では各ストランズが区別可能であるが、成熟すると各構成要素が寄り集まって1本の太い糸のような統一体になっていく。
ポイント
ロジャースの自己理論は奥が深いです。経験と自己概念のモデルをしっかりと抑えておくことをおすすめします。
さらに、こちらの記事で解説した、「セラピーによる治療的人格変化の必要にして十分な条件」や「ストランズ」などの関連用語も重要です。
また、人間性心理学派のセラピーの内特に有名な治療技法のリンクを以下に貼っておきます。ぜひ参考にしてみてください。