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妬みと嫉妬の違いとは?ネガティブ感情を力に変えるための科学!

ネガティブ感情

私たちが生きている世界には「妬み」や「嫉妬」といった、表に出してしまうことが憚れるようなネガティブな感情が数多く存在しています。

時には、自分の心の中で持続的に存在し続け嫌になってしまうこともありますよね?

しかし、この感情はあなただけでなく、人間である以上誰しもが持っている感情です。なぜ、このようなあけっぴろげに他者と共有することが難しいほどの、美しいとは言えない感情を人間は持っているのでしょうか?どのような仕組みでこのネガティブ感情は私たちの内部に存在しているのでしょうか?

今回は、ネガティブ感情のメカニズムからその上手な利用方法について詳しく解説していきます。

「妬み」と「嫉妬」の違いとは?

人間のマイナスな感情を表す単語はたくさん存在します。「怒り」や「蔑み」、「恨み」など、日常生活のどこででも聞いたことのある言葉ばかりです。

妬み」や「嫉妬(嫉み)」も同じように毎日のようにどこかで耳にする、あるいは自分の心の中に感じる単語だと思います。

ネガティブ感情の本質にせまる前段階の知識として、この2つの感情の違いについて紹介します。

というのも、この2語は一般的にほぼ同義で使われる言葉ですが、学術的には「妬み(envy)」と「嫉妬(jealousy)」は異なる感情として扱われているのです。

では、早速言葉の意味を紐解いていきます。

妬み(envy)自分が所有していないなんらかの価値のある能力や地位やものを、別の誰かが所有している場面で、自分もその価値あるものを手に入れたいと願うときに、その相手に感じる不快な感情。

 

嫉妬(jealousy)自分が所有しているなんらかの価値のある能力や地位やものを、別の誰かが所有していない場面で、価値ある対象をその相手に奪われてしまうのではないかという可能性があるときに、その相手に感じる不快な感情。

 

これが言葉の定義上の違いになります。

つまり、自分がもっていない好ましい何かを、他者が持っている場合に感じる不快な感情を妬みといい、自分がもっている好ましい何かを、他者が狙っていて取られてしまうのではないかと心配するような気持ちを嫉妬というということです。

分かりづらいと思うので、具体例をあげてみましょう。

 

① :僕が好きなA子ちゃんは,、頭がよくてスポーツができる人がタイプだといっている。僕の親友のB君はいつもテストの点数がクラスで1位だ。それにサッカー部でも1年生からレギュラーで運動能力抜群だ。僕はB君ほど頭もよくないし、同じサッカー部では2年生になった今でもサブメンバーだ。僕もB君のようになってA子ちゃんを振り向かせたい。B君の能力が欲しい。

 

② :僕には現在交際中の彼女がいる。彼女は僕のことを愛してくれている。それに学校では明るいキャラクターと美しいルックスを持ち合わせクラスの人気者だ。もちろん男子からの人気も圧倒的だ。そんな魅力的な彼女がいてとてもうれしいのだが1つ気がかりなことがある。それはクラスの人気ナンバーワン男子のC君と必要以上に仲良くしている様子がしばしば見受けられることだ。なんせ、来月行われる球技大会で彼女とC君は同じチームになった。僕はというと別のチームになってしまった。これから練習などでどんどん仲良くなってしまうのではないか。なんだか心配だ。

上記の例の場合、①では「僕はB君に対して妬みを感じていて、②では「僕はC君にたいして嫉妬を感じているのです。

お分かりいただけたでしょうか?これが厳密な「妬み」と「嫉妬」の違いです。

この2つの感情は、学問上は分けて定義づけられていますが、現実の社会の中では混同して感じられるようなことがほとんどだと思います。

たとえば、「友達はどんどん難しい数学の問題が解けるようになっていくのに、自分は全く成長しない。」と感じる状況の時、友達が持つ数学の能力を自分が欲しいと感じているのと同時に、自尊心やプライドを友達に奪われていってしまうのではないかと感じる場面を想像していただくとわかりやすいと思います。

つまり、実際にこの2つの感情は同時に喚起して何ら不思議ではない類似したものであるということは間違いないでしょう。むしろ、人間の相互関係と実際の社会的背景を考えると、理論上はこの2つをほぼ同時に感じることがほとんどです。

従って、これ以降は妬みに絞って解説していきます。

「妬み」を感じるメカニズム

妬みとは、言葉の意味からも分かるように、自分が持っていないが故に感じる「心の痛み」を表す感情です。

しかし、能力にしろ、地位にしろ、物品にしろ、私たちは持っていないものがほとんどではないでしょうか?妬みという感情が、欲しいものを持っているすべての相手に反応していたらさすがに疲れてしまいますよね?説明するまでもありませんが、私たち人間は、ある基準を軸にしっかりと選択して妬んでいます。

では、どのような基準で妬むか妬まないかを脳は分類しているのでしょう?

 

①:類似性

類似性とは性別や価値観、目標、所属組織(学校・職場・部活)などが自分のそれと似ているかを示す指標のことです

例えば、サッカー部の人の場合、友達がレギュラーになったのに自分はなれていないといった状況です。もし、バレー部の友達がレギュラーになっても重みが異なります。これは、バレー部の友達に対して所属組織の類似性がないからと説明することができます。

もし、自分が全国大会を目指しているサッカー部員で、今の段階でサッカー部は全国大会に行けていないとします。この状況でバレー部の友達が全国大会に行ったとします。この場合、価値観や目標の類似性はあります。ここでは上記の状態と意味が変わってくるのです。

 

②:社会的比較理論

これは、類似性の補足説明ですが、社会心理学の重要な理論なので紹介します。

社会的比較理論とは、人間は自身の能力の自己評価を正確にしたいという欲求があるが、客観的な評価基準が見つからない場合、自分と似た他者と比較する性質のことです。この比較過程では、正当な評価をするために自分と心理的距離が近い他者を選びます。この時、自分よりレベルの高い他者との比較を「上方比較」、自分よりレベルが低い他者との比較を「下方比較」と呼びます。

(ちなみに、上方比較をすると妬みが喚起されやすく、下方比較をすると自尊感情が喚起されやすいということが分かっています。下方比較では自尊感情は育まれますが、成長のための努力にブレーキをかけてしまう性質もあるので注意が必要です。周りを気にしないでいることが最もスマートなんですけどね。なかなかそうもいかないのが人間というものです(-_-;)。)

 

③:獲得可能性

これは、妬みの喚起を説明するうえで特に重要です。

例えば、売れたいと強く願っているバンドマンがいるとします。同じライブハウスに出ている別のバンドのチケットが自分たちのものより売れたらものすごく妬むと思います。しかし、マルーン5のチケットがどんなに売れようともふつうは妬まないですよね?

点を誰よりも取りたいと思ってるサッカー部のFWの人でも、さすがにメッシがゴールを決めても妬まないと思います。

関心ごとがいくら類似していようとも、能力の差が客観的に明らかに開いている場合、獲得可能性が低くなります。その時に妬みは感じなくなるのです。

逆に自分の能力でも望みがあると感じられる範囲の時は「妬み」を喚起するのです

心理学者はこの概念を用い、「妬み」と「憧れ」を区別します。

つまり、憧れると本気で思った時「あなたとは勝負をする能力もエネルギーもありません。」と心が教えてくれていると思えばいいのです。

良い妬みと悪い妬みがある?

実は、妬みには良い妬みと悪い妬みがあることが分かっています。

 

先に答えを言ってしまうと、良性妬みとは羨みのことです

えっ!羨みと妬みって同じなの?普段妬ましいとはあまり言わないけど、羨ましいならよく言ってると思った方もいますよね?

これは、公正世界信念という社会心理学の理論で説明できます。

公正世界信念とは因果応報のことです。

つまり、良き行いをした人には褒美が与えられることは自然で、悪い行いをした人にはバツが与えられて当たり前と思うことです。

公正な幸福に対して人間は羨ましいといっているのです。

しかし、ここが公正世界信念の落とし穴です。

この公正世界信念は極めて主観的に決められています。つまり、根拠のある指標ではなく、自分の中だけにある勝手な指標を頼りに評価されているということです。

例えば、お金を沢山稼いでいる人を羨ましいと表現する場合と、妬ましいと表現する場合を考えてみましょう。

 

①:Aは学生時代まわりの遊んでいる仲間に流されず、必死に勉強して司法試験に合格して法律家になった。Aの学生時代の勉強に対する誠実な姿勢や努力は他の人が真似できないような偉大なものだった。彼は、現在35歳で年収4,000万円のやり手弁護士だ。忙しくて週1日でも休めたらいいほうだ。

 

②:Bは高校時代トマ・ピケティーの経済学の本を読み、労働者は永遠にお金持ちになれないことを知った。大学に行ってたくさん勉強して給料が高い仕事につけたとしても、資本主義経済の中では勝てないことを悟ったため、大学にはいかず、1年間必死に投資の勉強をした。家に引きこもってひたすら勉強していたため、周りの友達からは怠け者に見えていたに違いない。しかし、Bの10代の頃の金融に対する執着心と勉強量は計り知れない。ある意味他人が真似できないような偉大なことだ。彼は、現在35歳で投資だけで年収4,000万円を稼ぐやり手トレーダーだ。彼は、自由で好きなときにのみ取引をしている。

おそらく多くの方が、①を羨ましいと感じ、②を妬ましいと感じたでしょう。

Aの場合、計り知れない勉強をして苦労に苦労を重ねて弁護士になりました。そして今でも、顧客のために必死で忙しく働いています。Aが高所得なのは当たり前です。

しかし、Bも同じではないでしょうか?Bも必死に勉強をして確固たる金融リテラシーを身に着けました。多くの同級生が大学で遊んでいた時に一人でこもって本を何冊も読んだのです。そして投資で勝てるスキルを手に入れたのです。働きもしないのに高収入なんておかしいと思うのは本質からずれているのです。

この説明を読んでもピンとこないことこそ、公正世界信念がいかに自分の軸で判断されているものを説明する根拠になるかもしれないですね。

この場合、「たくさん勉強して良い会社で働くと高収入が得られるよ」といった小さいころからの教育がAの成功を受け入れBの成功を受け入れないという結果に寄与しています。

つまり、人間は実際から大きくづれた、自分だけの評価基準で、他者の幸福が公正なものなのか否かという判断をしているということです。

ただ、羨ましいと思う気持ち(良性妬み)は、現実的に、自分を高めるきっかけになります。これは事実です。では妬みはどうでしょうか?

ある心理学の研究では、良性妬みを喚起している状態は、陰性妬みを喚起している場合よりも生産性(パフォーマンス)が高いという結果を報告しています。

羨ましいと思う状態になると、人間はより頑張るようになるという性質を実証したとても貴重な研究ですね。

妬み感情を上手に使い自分を高める!

妬み=嫌な感情。

これが私たちの一般的な価値観です。

しかし、冷静に考えてみると、良いか悪いかではなく、事実として人間が持っている感情ということです。

持ってしまっているのだからそれを評価する前に受け入れて、どう利用できるか考えるのが賢い判断といえるでしょう。

妬みとは、上で解説した通り、欲しいけど持っていない状況の時に生まれる感情です。つまり、自分が本当に欲しいものを明確にしてくれます。

「将来やりたいことが分からない。」「自分が選んだ道に自信をもって希望があるといえない。」そんな方は、自分が妬ましいと思う人、あるいは対象を考えれば、やりたいことも見えてくるでしょう。

更にそのことは同時に今は持っていないということです。欲しいものを持っていないならあきらめるのではなく、持てる様に努力すればいいのです。

先ほど獲得可能性の話も紹介しました。少なくとも妬ましいと思っている段階では、獲得できる可能性が存在しています。サッカー部の人がメッシに憧れている状態と、同級生に妬みを感じている状態では意味が違います。

心の深くで諦めてないから、妬みを感じるのです

妬みには大切な取り扱い方があります。

家電品やパソコンのように長ったらしくありません。

 

①:絶対に他者をこき下ろすために使ってはならない。自分の力で他者を上回る努力をするためのエネルギーとして使うこと。

 

②:①が守れない場合は、妬み感情は永遠にネガティブのままである。

 

これだけ守ればいいのです。

脳科学においても、妬みと報酬予測を司る部位は同じということを報告しています。

妬みがやる気と連動することを教えてくれる、大きな助けになる研究ですよね。一緒に誰でも持つネガティブ感情を、逆にエネルギーに変えて頑張ってみましょう。

まとめ

科学は人間と社会を幸せにするために成り立っているものです。

人間にまとわりつく、一見マイナスな感情も別の視点からの見方を教えてくれます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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