皆さん、「影響力の武器」という本をご存知ですか?
もしかしたら、書店や図書館で見かけたことがあるかもしれません。
ロバート・チャルディー二さんという著名な心理学者が書いた、ベストセラー本です。社会心理学の一領域である、経営(販売)心理学の名著中の名著といえるでしょう。
こちらの本です。
今回の記事では、このすごすぎる本の内容を、具体例を差し込みながら紹介していきます。
なぜ、この本がすごいのか?
まずこの本の魅力を私なりに説明します。
「影響力の正体!それは、何なのか?」この漠然とした疑問に納得のいく答えを示してくれたのがこの本でした。
1つの切り口として影響力は、対人関係において人の心を動かすための大きな力と説明できるでしょう。
影響力というものは、「誰かにものを売りたい人」「好きな人を振り向かせたい人」「知名度を勝ち取りたい人」「お金持ちになりたい人」「他人を喜ばせたい人」「営業やマーケティングをする人」「異性にモテたい人」「クラスの人気者になりたい人」「上司を説得したい人」「部下を育てたい人」、つまりすべての人にとって必要なものです。
心を動かすと聞くと、読心術や占いといった類の怪しげな、大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、よく考えてみると人間が生きていくなかで、人の心を動かさなければならない時が沢山ありますよね?
この本での議論は
非科学的でスピリチュアルな怪しいレベルのものではなく、一般的な日常生活で皆さんが経験する現実レベルのものです。
影響力はビジネスであれ、人間関係であれ、社会的な相互関係がある以上大きなパワーを発揮します。社会的な存在である私たち人間にとって、切っても切り離せない根本的なものなのです。それに、繰り返しにはなりますが、影響力は受けるばかりでなく、すべての人が与える側にならなければならない時が人生にはあります。
(もちろん大衆を動かしたいのであればより大きな影響力、目の前にいる人を動かしたいのであるならば小さくても良いというように、大きさはその人の立場により異なりますが影響力自体はどんな人にも必要でしょう。)
これらのことをまとめると、すべての人間が知っておくべき内容がこの本には詰まっているということになります。
この本のすごさを一言で表すと、「すべての人間をターゲットにした(とういよりも必然的にすべての人のためのものになってしまう)書籍である」ということになるでしょう。(例外があるとすれば、無人島や田舎で人と関わらず自給自足をしていく覚悟がある人くらいですね。この記事を読んでいただいている方はこの本の内容は役に立つと思います。)
人間を動かす6つの心理的トリガー
この本には、人間が意見を変えるとき(影響を受けるとき)のメカニズムが書かれています。
その根本的な要素として挙げられているのが、これから紹介する6つの心理的トリガーです。
この6つの要素はもしかすると、経験上皆さんがすでに分かり切っていることかもしれません。そんな方も、裏を返すと「わかっているけれど、動かされている(影響を受ける)」ということになりますよね?(もちろん私も分かっているのに動かされています。)
分かっているのに動かされているということは、この6の心理的トリガーはもはや理性や知性ではあらがえないものであるということに他なりません。
6つの心理的トリガーは、人間の中核にある根本的なものなのでしょう。
私たちの心は、頭でわかっているだけではどうにもならない、6つの要素によって動かされれているのです。
逆を言えば、自分が影響力を与える側になりたい場合、この6つの要素を取り入れていけばいいのです。(もちろん悪用は禁止です。生産性のある目的にのみ使わないと元も子もないのですが。)
では早速この6つの心理的トリガーの中身を紹介していきますので、影響力の本質的なメカニズムをご覧ください。
返報性の法則
他人からの好意(時として敵意)を、そのまま返したくなるという心理原則です。
つまり受けたものをそのまま、あるいはより大きくして返したくなるという法則です。
有名な例をあげていくと、百貨店やスーパーでの試食や無料お試し期間などがあります。
もちろんこれには、本当にその商品の品質をチェックするという一般的な消費者心理もありますが、マーケティングではもっと深いところを狙っているのです。
つまり最初に価値を与えることによって、お返しをしなきゃ(商品を買わなきゃ)と消費者に思わせることによって、商品の購入に結びつけているということです。
人間はもらいっぱなしでは気持ちが悪いのです。特に対面で行われる試食などは、返報性の法則がより顕在化することが分かっています。
よく言われていることではありますが、逆もしかりで悪口をいうと跳ね返ってくるというものも返報性の法則で大体の説明がつきます。
<活用の仕方>
ここで、重要なことは、影響力を持ちたければ、見返りを求めないで徹底的に与えることが大切だということです。
一般的に、試食のおばちゃんも買ってほしいからということありきで試食を行っていても、消費者にすぐに見透かされてしまいます。
ビジネスでは利益を出さないといけないという側面もありますが、消費者の心理はそこまで甘くありません。あげたんだから、返してよという心理では、理性であらがえてしまうのです。
相手をどんどん引き込むような、徹底的な植え込みというものが大切ということです。
ですので、与える側は、返してほしいと思う自分の都合はいったん横に置いておいて、目の前の相手が心配になってしまうくらい喜ばせないと、この返報性の法則という心理は実用レベルでは効果を発揮しないものとなってしまいます。
社会的証明
これは、自分の意見や行いが正しいと思いたいという人間心理を前提としたもので、正しさを自分の中で確固たるものにするため、あるいは他者に理解させるために「集団(みんな)が自分と同じなんだ」と考えることや伝えることです。
例えば、子供が親にモノをおねだりするとき、「○○ちゃんは買ってもらってたよ」とか「みんなもってるよ」と親を説得しようとしている場面を見たりしたことがあると思いますが、これが正に社会的証明の良い例です。
行列のできる人気店に、更に人があつまるという現象を見たことがありますよね?また「口コミこそ最大のマーケティング」だという言葉を耳にしたこともあるかと思います。そしてネットでの買い物の際、レビューを見てから商品を買うかどうかきめようとしますよね?このすべてが社会的証明の理論で説明可能です。
皆がやっているからって自分がやらないといけないルールなどないですし、冷静に考えたら全く論理的ではないですよね。でも、みんなが選んでいるものを自分が選んでいないと人間は焦ってしまうのです。これは、群れることで生き延びてきた人間が古くから持っていた性質なので、多くの人にとって理性ではあらがえないものなのです。
<アッシュの同調実験>
人間がどの程度、他者や集団に流されるのかを調べた有名な実験があります。
アッシュという社会心理学者は、通常の知的能力をもつ人であるならば100%正答できるような課題を出しました。
実際にどのような課題を用意したかというと、最初にある線分を見せてからしばらく時間を空け、それぞれ長さの異なる3本の線分を提示します。被験者には、最初に見た線分と同じ長さのものを選んでもらうように教示しました。もちろん、一人でこの課題に取り組めば何ら迷うことなく正解するような簡単すぎる問題です。
しかし、アッシュは、この問題に間違って回答するサクラ(うその被験者)を用意し、何も知らないたった1人の本当の被験者がどのようにを回答を変えるかを観察しました。
すると、7割の被験者(本当の被験者)が、周りの誤った意見に流され、自分の回答を変えたのです。
このようなことは良く起こりますよね。自分はAだと思っても、周りのみんながBと言ったら、焦るはずです。これも、社会的証明の一例です。
好意
「好き」という感情を持たせることは影響力を持つためにとても大切です。
当たり前ですよね。一見深みの無いどうにもならないことと思ってしまうかもしれませんが、意外に解説の余地があります。
好意を持たせるためにどのようなことができるでしょう?
◇まず1つ目は、「共感」です。
初対面の人と初めて会話をする場面を思い出して下さい。自然な会話の流れとして、共感できる(一緒)ものをお互い探りますよね?
例えば出身地であったり、大学でしたら学部やサークルやバイト、職場であったら部署、プライベート的なことで言えば趣味や血液型など多岐に渡り一緒のものを見つけようとすると思います。そして一緒のものがみつかると盛り上がりますよね?
出身地が同じというだけで仲良くなったり、飲みに行ったり、コミニティーが出来たりすることもあります。また学部やサークルが同じだけで少し味方になったような気がすることもあるかと思います。もちろん関係が深くなれば、価値観や考え方の共感できる相手を心強い味方だと思うようにもなります。
実は、このような現象には、内集団びいきという心理が関係しています。人間は、仲間を作ることによって生き延びてきた種なので、基本的には仲間を求めます。そして、自分と一緒の性質を持つ他者は仲間になりやすいです。なぜなら、仲間を選ぶ基準として、共感というものを利用するからです。
◇2つ目は「承認」です。褒めるということですね。
人間は誰であっても多かれ少なかれ、認められたいという根源的な欲求を持っています。その欲求を満たしてくれる相手に対して好意を抱くようになっているのです。
影響力を持っている人を良く観察すると、「褒めるのが上手い」です。
また、お互いが好意を持ち合っているカップルや夫婦などは、お互い尊敬しあっているという関係であると思います。
好意と承認はほぼ同義ではないかと思うくらい密接です。
◇3つ目は「目標の一致」です。
先ほどの共感のところで人間は仲間を作りたい生き物だということを書きましたが、なぜ仲間を作りたいのかというとその根本的な理由は、目標を達成させたいからということになります。
当たり前ですが、同じ目標がある人に対して人間は好意を抱きやすいです。
例えば一緒に遊ぶためにグループを作ったとします。なぜグループを作ったかというと「楽しみたい」という目標があるからです。この目標を達成するためには、相手のことを理解しなければなりませんし自分のことも理解してもらわなければなりません。そのプロセスで行為を抱くのです。
別の例でいうと、受験などがあげられます。実質的にグループまでは作らないまでも、心の中で見えないネットワークを作りお互い刺激を貰いながら進んでいきます。まさにこの過程で、影響力の前段階の産物でもある好意というものが作られていくのです。
また、関係の中で目標がだんだんと一致していくようなこともあるかと思います。そんなとき、以前の関係性よりより成熟したものになると思います。「幸せ」という目標を追い求めて付き合うカップルが良い例でしょう。好きだから付き合うというのはもちろんあると思いますが、付き合うことによって更に好きになっていくというものが正に目標の一致による好意の拡大です。
そのほかにも心理学では、ハロー効果(第一印象が良い人はそのあともずっと好印象)やザイアンス効果(何度もあっているとすきになってしまう)、美人ステレオタイプ(外見が良いだけで他の性質もよくみえてしまう)など、好意をつくるメカニズムを示した理論がありますが、ここでは、利用可能なものとして「共感」「承認」「目標の一致」という3つを詳しく紹介しました。
権威
簡単に言ってしまうと、人間は力に弱いということになります。
マーケティングでいうと、化粧品の広告として「芸能人が愛用」と書かれていたり、本の表紙に「脳科学者が推薦」と書かれていたりするのを見たことがあるかと思います。また、筋トレサプリのパッケージに有名スポーツ選手の名前と写真がプリントされていることや、飲食店の壁にグルメリポートで有名なタレントが来店したこと示す写真がはって会ったりするのを見たことがあるかと思います。
これらはすべて権威という心理的トリガーを利用している良い例です。
日常生活でも、例えば、テレビの健康番組で納豆はやせると放送されれば、それが正しいか持ちがっているかは別として、「テレビで言ってた」と友達や家族の話題になりますよね?
クラスの人気者がツイッターを更新すればその動向が気になったりもしますね。
これも、権威という心理的トリガーです。
コミットメントと一貫性
これは、相手を説得する際に誰でも使ったことがある、あるいは見たことのあるものと大きく関連しています。
人間の性質として、「自分の意見や行動を変えたくない」というものがあります。つまり、ずっと同じ態度の自分でありたいというものです。
自分の価値観や生き方を簡単に変えてしまうと、それだけ浅はかだったのかと思われたりしてアイデンティティが傷ついてしまいます。これを防ぐために、人間は自分の大切なものにコミットし、一貫性を保とうとします。
ひとつこの心理的トリガーをうまく利用した説得技法があるので紹介します。
あるスポーツジムが会員獲得のためにアンケートを行っていました。
アンケートの項目は「あなたは健康でありたいですか?」「健康はお金よりも大事ですか?」「愛する家族とできるだけ長く過ごすために健康にこだわりますか?」「痩せたいですか」「運動は好きですか?」「健康のために運動することは重要だと思いますか?」「家の近くにジムがあったら通いますか?」といった簡単なものです。
なぜこのようなアンケートを実施したのでしょう?
実は、アンケートを行った人にとって、このアンケートで一番重要だったことは「はい」と答えてもらうことでした。
小さく「yes」を繰り返させることによって、最後の一番「yes」と言わせたい質問、つまり「当スポーツジムの会員になりますか?」という質問で「yes」と言わせる確率をあげているのです。
さんざん、健康や運動が大事といっている人は「コミットメントと一貫性」という心理的トリガーによりその意見を変えたくありません。
この人間の性質を利用して相手に気付かれないように、最後の「yes」をいわせるため、簡単なアンケートの項目で小さく「yes」と言わせ続けたのです。
希少性
これも、マーケティングでよく使われている技法です。
「期間限定商品」や「季節限定商品」、「締め切り時間を指定して販売するテレビショッピング」などが上手くこの希少性を利用しています。
つまり、今買わないと二度と買えない、あるいはしばらくは買えないと思わせることによって商品の購買意欲をあげています。
ブランド品も、影響力を持たせ価格を落とさないために、あえて製造数を少なくしていますね。
また、「完全予約制」や「1日3組限定」と看板をはっている高級料理店などもこの希少性の心理をうまく利用しています。
サークルの勧誘なども、「いつでも来てね」と宣伝したサークルよりも、この日までと締め切り日を指定したサークルのほうが、入部する人数が多いそうです。
また、珍しい人というのも、この希少性に入ってきますよね?世の中をよく観察してみると、独特な人が影響力を持っていることが多々ありますがそれもこの希少性という心理的トリガーが作用しているのです。
まとめ
いかがでしたか?
この6つが「影響力の武器」で紹介されている心理的トリガーです。
人間は、このようにして他者から影響を受けたり、逆に自分が他者に影響を与えたりしています。
興味を持っていただけた方はぜひ、原本を読んでみてください。