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行動経済学が解き明かす!お金と心の不思議 -具体例をあげながら解説-

お金

人間とお金の関係を徹底的に追及し続ける学問!それが行動経済学です。

行動経済学が分かれば、賢い消費者になり貯金が増えます。また逆もしかりで、人間の非合理性をうまく利用したマーケティングも展開できます。買い手と売り手の両者とも、お金と関わるうえで絶対に知っておきたい、人間とお金の科学を具体例を交えながら紹介していきます。

行動経済学とは?

そもそも、行動経済学とは何なのでしょう。いきなりですが、行動経済学を理解するための超重要用語を先に紹介してしまいます。

それは「バイアス」という言葉です。

バイアスとは、いわゆる合理的な判断を行わないことによって生じる意思決定の偏り(歪み)のことです。消費活動において、人間の意思決定は実に非合理的で感情に任せて行われています。

行動経済学は、伝統的な経済学が前提とする「人間は利益の最大化のために最も合理的に意思決定を行う」という考え方は、現実には反映されないという矛盾を発見して出来上がりました。

従って、行動経済学では、人間の非合理なお金との関わり方(使い方)を研究しています。あらゆる状況下で態度を変え続ける人間の心理に着目することによって、私たちが何気なく行ってしまう経済活動を図式化しています。人間が生きている以上心が存在するため、生活の中のあらゆることに心のバイアスが影響を与えます。もちろん経済活動も例外ではありません。

簡単に言ってしまうと、行動経済学とは経済学と心理学のコラボレーションです。そのため極めて実用的な学問領域といえます。

 

なぜ行動経済学が必要なのか?

先に断言をしておきます。お金持ちになるには行動経済学の考え方が必要です。

もちろん、行動経済学を学ぶことがお金持ちになることに直結するわけではありません。しかし、自分の中の身勝手な心というものに振り回されずに消費活動をすることはとても大切です。

例えるなら、お金持ちになりたい人が行動経済学を学ぶことは、数学が出来るようになりたい人が九九を覚えるのと同じようなものです。

小学校2年生で習う九九の計算が出来ただけでは中学校以降の数学がすべて出来るようにはなりません。しかし九九が出来たおかげで中学生以上の数学がとても便利に遂行できたのを思い出して下さい。

行動経済学の知識は数学の九九のようなものです。お金持ちになるためのひとつの基礎的なツールなのです。しかし、お分かりのように基礎が圧倒的に大事なのです。言い過ぎかもしれませんが、お金持ちになりたい人が行動経済学を知らないのは、九九の計算ができないのに三角関数の問題を解こうとするのと同じようなものです。

お金持ちになるために大半の方が、労働にせよ投資にせよ沢山稼ぐことをまず考えようとしますよね?もちろんこの考え方は大正解です。収入を増やすこともお金持ちになるための大切な要素です。

しかし、皆さんもお察しのように、お金持ち=沢山稼ぐ人では十分な答えではありません。

答えは簡単です。当たり前ですが、お金持ち=お金を沢山持っている人です。

例えば、月収1000万円の人が月に999万円使ってしまったら手元に残るお金は1万円です。しかし、月収20万円の人が月に10万円しか使わなかったら手元には10万円が残ります。お金持ちとは後者のことをいうのです。

なーんだ当たり前じゃん。「貯金が大事!」「浪費をするな!」ってことだろ?って思った方いますよね?そう思った方ほど、この後を読んでほしいです。

行動経済学はもっと根本の奥深い原理を徹底的に追求しています。そもそも、本質が分からないと、「貯金」も「浪費解消」も出来ません。行動経済学がここまでブームになったのも人間の非合理な行動から目をそらさず直視し続けて、賢く生きるためのヒントを与えてくれているからだと思います。裏をかえせば、われわれ人間は気づかないうちに非合理な行動をとっているのです。

人間である以上、心を持っています。人間の心は非常に非合理的で身勝手です。著名な心理学者ですら、自分自身の心のことは完全には分かっていないでしょう。

最初に言ってしまいましたが、行動経済学のキーワードは「バイアス」です。人間の心の中に存在するバイアスに盲目的に振り回されずに、客観的に認識することが、不幸を喚起してしまう非合理性を少しでも減らせる助けになります。

ただ社会的な存在である私たちですから、行動経済学を知っているからと言って100%合理的なお金の使い方が出来るかと言ったら怪しいです。ほかの要素も絡み合ってきますよね?例えば、個人の統制力の問題もあるでしょうし、大切な人間関係の付き合いなど状況によって分かっていながら非合理な行動をとらなければならない時もあります。

しかし、分かっていてあえて非合理な行動を選択するのと、分からないまま非合理な行動を勝手にとってしまうのとでは意味が違います。わかっているとは予測がつけられているということなので人間の非合理性をも楽しめるでしょう。

知は力です。

行動経済学は、死ぬまでお金と関わり続ける私たち人類にとって例外なく皆が学ぶべきものなのです。

同じ値段でも心の中で価値が変わる?

突然ですがここで思考実験をします。

A: 新生活を迎えたあなたは、通勤のために自転車を購入しようとX店に来た。特に自転車に特別なこだわりはないので安全に運転できればそれでいい。目についたママチャリは1万2千円だった。購入の申し込みのために店員を呼ぼうとしたその時、不意にY店の広告を目にした。Y店ではたった今購入しようとしていたものと全く同じ自転車が1万円で売られているという。今いるX店からY店までは歩いて15分ほどかかる。

 

この状況下であなたはどちらの選択をするでしょうか?

⑴ X店(1万2千円)で自転車を購入する。

⑵ 15分歩いてY店(1万円)で自転車を購入する。

さて、次の質問に移ります。

B: 新生活を迎えて間もなく夏の休暇に向けて新しい車が欲しくなった。車を購入するべくXX販売店に来た。今回車を買うにあたり前もって決めた条件は4人乗りで安全に運転ができることのみだ。この条件を満たす目ぼしい車が100万2千円で売っていたため購入しようと思いディーラを呼ぼうとした。するとここから15分離れた系列店のYY販売店に全く同じ車が100万円で売っているということを不意に知った。

この状況下であなたはどちらの選択をするでしょうか?

⑴ XX店(100万2千円)で車を購入する。

⑵ 15分歩いてYY店(100万円)で車を購入する。

 

おそらく多くの方が、Aでは⑵を選択しBでは⑴を選択したのではないでしょうか?

Aの場合、浮いた2千円で贅沢なランチをして帰れると思った方もいるでしょうし、読みたい小説を買うための費用や、見たい映画のチケットを買うための費用に回せると考えた方もいるでしょう。

しかし、Bの場合たった2千円を惜しんでわざわざ15分も歩くのはナンセンスだと思ったでしょう。

考えてみるといわば当たり前の行動パターンで、多くの人が同じように考えますよね?

行動経済学の様々な研究でも、消費に対する意思決定のプロセスで、人間の選択は定価に依存することが報告されています。

上記の思考実験で、おそらく多くの方が示したであろう行動選択の中には、人間ならではの特徴があります。つまりどこまでお買い得かを考える際に、支払金のパーセンテージを強く意識し、実際の差額を比べようとしなかったという心理的プロセスが存在しているということです。

これを行動経済学では相対思考と呼んでいます。

つまり人間は買い物の額が大きくなればなるほど、そこに付随するコストに無頓着になりやすいのです。

これが全く同じ2千円が心のなかでその価値を変えた仕組みです。

節約のためには絶対的な視点で商品を見れるような努力をしなければいけませんね。相対思考という心理的トリガーを少しでも抜け出す努力が賢い消費生活につながりそうです

お金の使い方に強力な影響をあたえるものとは?

相対思考を理解したことにより、全く同じはずの金銭が心の中でその価値を変えてしまう根本的な仕組みをお分かりいただけたと思います。

次は少し別の視点から人間の不合理な消費行動を説明した理論を見ていきます。

次のシナリオを読んでどのような行動をとるかお考え下さい。

シナリオA:今日はあなたが1カ月前から楽しみにしていた映画の公開日だ。映画のチケットは前もって2千円で購入していた。当日、前もって購入したチケットをバッグに入れ映画館に向かった。入場しようとすると、バッグに入れたはずのチケットがない。あなたはもう一度2千円を払ってチケットを買いなおすだろうか?
 

行動心理学の古典的な研究で、これと似たような実験が行われています。ダニエル・カーネマンが行った研究ではこのような状況に見合わせた時、ほとんどの人が、チケットをなくしたのだから諦めるという選択を受け入れたそうです。

しかし、シナリオを少し変化させてみると様子が変わりました。次のシナリオを読んでみてください。

シナリオB:今日はあなたが1カ月前から楽しみにしていた映画の公開日だ。しかし、今回は前もってチケットを買っていない。かわりに、2千円を財布に用意して当日券を買うつもりだった。しかし映画館に到着して財布を開けると用意したはずの2千円がない。あなたは、クレジットカードで2千円を払ってチケットを買いなおすだろうか?
 

このシナリオでは、シナリオAで諦めるという選択をした被験者のほとんどが考えを変えて、もう一度支払うという選択をしたそうです。

なぜ、状況によって同じものに二重で払うか否かの選択が変わったのでしょう?

それは、「心の会計(メンタルアカウンティング)」という理論で説明ができます。

これは、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーが唱えた理論です。

心の会計というのは、心の中に存在するお金の分類のことを指します。ヒトが、同じ金額であっても、その入手経路や用途によって価値を変えることを説明した理論です。

自由に使えるお金でも、例えば、「より良い暮らしのためのお金」「自己投資のためのお金」「交際費」「旅行費」「日用品を買うためのお金」「貯金にまわすお金」など様々なグループが心の中に存在します。しかし、この仕訳の仕方が必ずしも一律でないという事実が心の会計を理解するための重要なポイントです。

上記のシナリオのように、同じものに二重に支払うことが、「無駄」と感じることもあれば「仕方ない」と感じることもあるかと思います。

心の会計が存在することによって、全く同じ価値のはずの2000円がその価値を変えてしまうのです

スーパーや酒屋で買えば1本1,000円しない焼酎のボトルを、居酒屋で3,000円で買ってしまうのも心の会計で説明できます。

旅館での夕食で、コンビニでなら200円で買えるお酒を800円で買ってしまうのも、心の会計で説明できます。旅館では、「娯楽費」からそのお金が支払われ、普段支払っている「一般」という心の中の袋は眠っているのです。(あくまで、お財布の会計は同じなのにです。)

心の会計を本質的に理解している人は、自己コントロール能力が高まり貯金が上手になりそうですね。

まとめ

いかがでしたか?今回は行動経済学の代表的な理論を2つ紹介しました。

人間がいかに、本当の価格とほとんどが無関係な方法で価値を判断しているかがお分かりいただけたと思います。
 
人間が無意識のうちに行ってしまう非合理な行動を、客観的に評価しなおすことによってお金の使い方が上手くなるのでしょう。
 
ただ単にケチるのではなく、分かったうえでそれでも必要な時に買うというのが、賢い消費者なのでしょう。
 

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