「臨床心理学」における主要な治療法のひとつである交流分析(transactional analysis)について解説いたします。
交流分析(transactional analysis)とは?
バーン,Eによって開発された対人関係の問題解決を目的とした心理療法のこと。
「精神分析の口語版」と呼ばれているように、理論上は精神分析から出発しているが、無意識を仮定せず、他者との交流(ストローク)を積極的に求める人間観や「今、ここ」を重視することにより、人間性心理学の中に位置づけられている。(技術面からは、精神分析よりも認知行動療法と共通するものを多く含んでいるとされている。)
※心の構造や機能を、記号や図式を使って説明するところに特徴がある。
交流分析では、「人間は自分の存在を他者に認めてもらいたいために交流(ストローク)を求める強い欲求がある」という人間観やコミュニケーション感を前提としている。
これらの人間観、コミュニケーション感において、人間は陽性(好感情)のストロークが得られない場合は、陰性(悪感情)のストロークも求められると考える。また、陰性のストロークを得る手段となる慢性化した不快な感情をラケット感情と呼んでいる。
4つの分析法
交流分析で用いられる具体的な分析法として、①構造分析、②やり取り分析、③ゲーム分析、④脚本分析の4種類がある。これらの詳細について以下で説明する。
① 構造分析
人間の心の中には、親の心(P)、大人の心(A)、子供の心(C)の3つの自我状態があるという仮定に基づき、クライエントの自我状態を明らかにする分析のこと。
親の心(P):対人場面において、その相手に対して道徳的に振舞う心の領域。
大人の心(A):対人場面において、現実の状況に合わせて冷静に振舞う心の領域。(精神分析の自我にあたる)
子供の心(C):対人場面において、自分の欲求や感情を表現する心の領域。(精神分析のイドにあたる)
更に、対人関係のあり方を分析するために、デュセイ,J.M.が開発したエゴグラムを用いる。この結果から、対人関係においてどのような側面を重視しているのかが分かる。
エゴグラムとは、構造分析の際に用いられる分析法であり、面接や質問紙を用いて明らかにされた自我状態を図式的に表現する。(通常は、横軸に5つの自我状態、縦軸にその強度が棒グラフか折れ線グラフで描かれる。)
【エゴグラムにおける5つの自我状態】
①批判的な親の心(CP):規律や道徳を重んじる
②養護的な親の心(NP):保護や優しさを重んじる
③大人の心(A):現実的な判断、理性を重んじる
④自由な子供の心(FC):自由や開放を重んじる
⑤順応した子供の心(AC):適応や協調を重んじる
構造分析の結果から、人が強迫的に従ってしまう人間関係の様式を発見し、新しく適切な関係の様式を再構築することがひとつの目的になる。また、感情や思考、行動を自己コントロールすることが目的としてあげられている。
日本においては、東大の研究チームが開発した質問紙式の東大式エゴグラム(TEG)が有名である。TEGは、治療場面に用いられるだけでなく、一般的なパーソナリティ検査としても使用されている。
② やり取り分析
親の心(P)、大人の心(A)、子供の心(C)の自我状態が、問題となっている対人場面でどのように交流しているのかを分析すること。
(P・A・C)を矢印で示し、2者間における相互にやり取りする言葉や態度が、どの自我状態から出ているものなのかを特定することを目的とする。(交流パターン分析ともいう。)
互いが表現しているストロークの内容によって、以下の3つに分類される。
①相補的交流:互いのやり取りはスムーズであり、基本的に問題がなく適応的な交流パターン。
②交差的交流:やり取りに行き違いが生じており、問題や悪循環を引き起こす可能性が考えられる交流パターン。
③表裏的交流:やり取りに表と裏がある交流パターン。特に本音の交流パターンが交差的交流の場合に問題が生じる懸念がある。
③ ゲーム分析
やり取り分析で明らかになった対人関係のパターンの中で、相手に情緒的な影響を与える言動のパターンであるストロークを特定する。そして、特に問題を引き起こしているストロークとそれに対する返し方(ラケット)を特定する。
そして、このストロークとラケットの組み合わせによって生じた対人関係の問題を生じさせている反復的な交流パターンをゲームとして特定し、修正することを目的に行う。(交流分析の中核をなすものであると考えられている。)
脚本分析
無意識のうちに独自に作り出している対人関係や生活上の役割関係の脚本を特定し、その内容を修正していくことで、適応的で建設的な対人関係を作り出そうとする技法。
この脚本は多くの場合、親からの否定的メッセージによって形成された、「~すべき」「~してはならない」などの強迫的な言い回しで形成されているものである。
その内容を知って、「今、ここ」で書き換える決断をし、新しい人生を歩みだすことを目的とする。
これが交流分析の最終的な目的である。
ストロークとは、交流分析における交流パターンを構成する要素で、社会的相互関係における相手への言動的・非言動的な働きかけを表す概念です。
肯定的ストロークと否定的ストロークがある。また、身体的な接触を表すタッチストローク、言葉かけや表情のことを心理的ストロークと呼ぶ。
特にやり取り分析において、どのようなストロークが実際にどのように作用しているのかを明らかにする。
ポイント
盛りだくさんな内容ですね。
まずは、構造分析で用いられるエゴグラムから覚えていけばよいと思います。
5つの自我状態とその内容を理解しておきましょう。
治療技法までの理解を定着させるためには、脚本分析までが必要です。ストロークやラケットなどの専門用語もありますので、ぜひチェックしておいてください。