「臨床心理学」における重要用語のひとつである心理査定・アセスメント(psychological assessment)について解説します。
目次
心理アセスメント(psychological assessment)とは?
クライエントのパーソナリティ・能力。生活環境・行動傾向などを多角的な側面(個体面や環境面)から全人的に診断、把握すること。
臨床心理士が行う心理アセスメントは、客観的で操作的な診断基準によって薬の処方のために病的側面に焦点をあてる精神医学の診断とは異なり、クライエントのネガティブな側面も健康的で豊かな側面も含めて、その全体像を把握する(全人的理解)ことを主眼に置いているという特徴がある。
※検査する内容は、パーソナリティや知能、発達、健康(うつ・不安・認知症)などである。
心理アセスメントの方法
心理アセスメントの方法は大きく、①面接法、②観察法(行動観察)、③検査法に分類される。
① 面接法
言語的コミュニケーションを行うことを通して、クライエントが表現した言語的・非言語的内容を分析することによってクライエントを理解しようとする方法のこと。
・構造化面接
→仮説を設定したうえで、あらかじめ質問内容を決め、決められた手順通りに進行する。仮説の妥当性を検証するための量的データを収集することを目的とするため、回答は選択肢式の閉じられた質問の形式をとる。
・非構造化面接
→何の取り決めもせず、反応に応じて自由に方向づけを行う。多面的なデータを収集して仮説を生成することを目的とするため、自由回答する開かれた質問の形式をとる。
・半構造化面接
→仮説生成と仮説検証の2つの側面をもつ面接法で、質問内容はあらかじめ決めておくが、クライエントの反応により質問方法や手順を途中で変えながら情報を引き出そうとする手法のこと。
閉ざされた質問は、不安・ストレス・緊張・防衛傾向の強い回答者に情報を段階的に引き出す際に有効的な手法である。
一方の開かれた質問は、クライエントに関する情報があまり収集出来ていない時に、自己開示を促進する際に友好的な手法である。また、クライエントのもつ主観的な認知や感情の枠組みに沿って、共感的に理解することに適した方法である。
② 観察法(行動観察)
対象となる人間の外的行動や言語活動などから、視覚的・聴覚的にいょう法を収集し、記録して分析することでクライエントを理解しようとする方法のこと。
(心理学における最も基本的な研究法のひとつで、乳幼児などにも適用できる。)
・自然観察法
→仮説設定のための準備段階で行うもので、操作や統制を行わず、その場で自然に生じる行動や自傷を観察すること。
・実験観察法
→仮説検証などの目的をもって行うもので、観察場面に何らかの操作や統制を加え、目的となる行動を生じさせ厳密に観察すること。
観察法が意味を持つためには、観察のための十分な準備と訓練がなされている必要がある。また、目的や意図が明確化されていることが大切である。
自然観察法の特殊形態として参加観察法がある。
これは、研究者自身が研究対象となる現場に身を置いて、被観察者のメンバーとなりながら観察する手法である。
状況内部から観察したり、共通体験を持ったりすることによって、より妥当性の高い現象把握が可能とされており、フィールドワークや臨床的な事例研究において重要だと考えられている。
(観察記録に制限がかかるが、生きた人間の相互作用が捉えられる。)
③ 検査法
標準化された刺激にどのように反応するかを通じて、クライエントを理解しようとする方法のこと。各種心理テストを用いる。
・質問紙法
→あらかじめ用意されたいちれんの質問項目に、「はい」「いいえ」「どちらでもない」や「あてはまる」「あてはまらない」などで回答する心理検査のこと。パーソナリティを多面的に捉えようとするものと、不安や健康など一側面を限定的に捉えようとするものがある。
利点 |
・検査者の主観が入りにくく、統計的処理による客観的解釈が可能。 ・同時に多くの人数を実施することが出来るため、集団実施が可能。 ・実施方法や分析方法がマニュアル化されているため、結果の整理が容易。 |
欠点 |
・自分自身のことを回答するため、無意識的側面が捉えられない。 ・虚偽をしたり社会的に望ましいとされる回答を選ぶなど、回答にバイアスが生じやすい。 ・質問項目が言語で作られている仕様のため、回答者の言語能力に依存する。 |
【質問紙法の検査】 |
・投影法
→曖昧で多義的な意味をもたらす、視覚的・言語的刺激を提示し、その刺激から自由な反応を得て、クライエントを把握しようとする方法のこと
利点 |
・自由な反応の中に、無意識的側面が反映されている。 ・検査の意図が読み取られにくいため、回答にバイアスが生じにくい。 |
欠点 |
・判定の根拠が薄弱なものが多く、分析に検査者の主観が入ってしまう。(信頼性と妥当性に疑問が生じる) ・集団実施が困難。 |
【投影法の検査】 |
・投影描画法
→描画には、書き手の感情や欲求が投影されていると仮設して、被験者に絵を描いてもらい、その絵を分析することによってクライエントを把握しようとする方法のこと。
利点 |
・言語表出が困難な年齢や症状を持つ対象に対しても実施可能。 ・実施が容易で、集団実施をすることも可能。 ・絵を描くこと自体が自己表現につながり、治療的な効果ももたらす。 |
欠点 |
・結果の解釈に検査者の主観が入りやすい。 ・解釈には検査者の熟練が必要。 |
【投影描画法の検査】 |
・作業検査法
→被験者に特定の単純な作業を実施してもらい、その結果を分析することでクライエントを把握しようとする方法のこと。
利点 |
・集団実施が可能。 ・検査の意図が読み取られにくいため、回答のバイアスが生じにくい。 ・作業が中心であるため、言語能力に依存しない。 |
欠点 |
・得られる情報量が少ないため、表面的で限られた側面しか判定できない。 ・内容が単純で時間がかかるため、被検査者への負荷がかかる。 |
【作業検査法の検査】 |
関連用語
見立て
診断と予後を含む治療プロセス全体についての見通しのこと。
原因を明らかにしたり、クライエントの問題をある理論に当てはめるものではない。あくまでも援助の道筋をつけるものであり、青のための仮説検証を繰り替える。
心理臨床家はクライエントと関わりながら、何度も見立てを修正し援助を進めていく。そして、援助になる可能性の高い介入を進めながらそれ以降の援助の在り方について指針となる情報を収集していく。
テストバッテリー
個人の心理的諸側面を多面的・総合的に理解するために、複数のテストを組み合わせて実施すること、および組み合わせたテストのこと。
テストバッテリーの目的は、ある1つの特性に関する・全体的・統合的理解と信頼性を得ることと、いくつかの異なった特性に関わる全体的・総合的理解を得ることである。
【ポイント】
検査の組み合わせ方は、検査者の好みや経験ではなく、目的や対象、時間的制約などを考慮したうえで決める。
具体的には、各検査の長所や短所を含む諸特徴を把握し、クライエントの負担をできるだけ軽減するために必要最小限の組み合わせを心がけて実施する。また施行順も、いきなり深層に触れるような検査ではなく、導入しやすい検査から始めることが重要である。
生物-心理-社会モデル
エンゲルによって提唱されたモデル。
クライエントのおかれている困難な状況を把握するためには、生物的側面、心理的側面、社会的側面の3つの視点から理解する必要があるとする考え方のこと。
バイオ-サイコ-ソーシャルモデルと呼ばれることも多い。
・生物(バイオ):身体、脳、神経、遺伝などの健康的な側面。
・心理(サイコ):ストレス、感情、認知、意志の強さ、生活の満足度などの心理的側面。
・社会(ソーシャル):対人関係、経済状況、環境などの社会的な側面。
※これら3つの要素が独立したものではなく、相互に関連しあい複合的に作用しあって困難な状況をもたらしていると考える。
まとめ
ボリュームのある内容ですが、心理アセスメントの総論的な部分の内容はとても重要ですね。臨床心理学の基礎的な領域と言えます。
総論の内容を理解したら、個別の検査の勉強を始めることをおすすめします。
よくまとまっていますね。ここまでまとめるの大変だったんじゃないでしょうか。
よろしければ参考文献を教えていただけないでしょうか。下山先生の本っぽいなあとは思うのですが。
いろいろな参考書を総まとめした感じです